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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作短編ファンタジー】山賊王とバーリヤッドの死神 3

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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『山賊王とバーリヤッドの死神』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は3回目。

『シンバ国、王都バーリヤッド城の地下水牢には、陰気な噂があった。
古代、シンバの王たちが冥府の神に生け贄の儀式を行っていた、暗くて深い洞窟には今――血に飢えた闇の獣が巣くっており、夜な夜な人の笑い声にも似た咆哮を上げるという。その声を聴いた囚人は、ことごとく死神の餌食になる運命だとも。さて、捕らえられた山賊ユラの運命やいかに?』

前回の「ラダールの花薬師」と比べると、多少ダークです。でもって、ゆきうさぎの中では勝手に、ユラの声は声優の諏訪部順一さんイメージで再生されてます 笑

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。 

【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

山賊王とバーリヤッドの死神 3

 知ってる、とコトナは吐き捨てる。

もう全部――つながってる。

シンバ国の王子は十年前、御年十七の誕生日に祝狩りをした。そして森のはずれで一人の孤児を拾った。

獣のように汚いその子供には名前のほかに記憶がなく、年を聞くとただ五歳とだけ、応えたという。

それから十年――卵から孵った雛のように孤児は王子を慕い、その命令ならなんでも聞いた。そう――たとえそれが人殺しでも。

不思議なことに、孤児は妖魔を操れたのだ。

しかも呼び出せる鬣犬(たてがみいぬ)は、闇使徒と呼ばれる上級妖魔だった。

その力は君の神たる証だよ――と、かつて王子だったサハルは断言した。

――過去にも妖魔を恐れ入らせ、使役できる人間は世に存在した。彼らは神の恩寵を身に受けた、言わば神の代行者だ。コトナ、可愛い俺の柘榴石……信じられないかもしれないが、君だってその神なんだよ。

もし不安なら俺だけを見、俺の声だけを聞け。そうすればもう、君を脅かすものはなにもない――。

実際、サハルはコトナを寵愛した。

背高で彫りの深い顔だちにかかる茶色の巻き毛、その髪の間からのぞく艶のある碧眼。サハルは眉目秀麗な男だった。

だがコトナを魅了したのは、この王子が持つ王譲りの蠱惑的な声色と、どこまでも自信に満ちた口調のほうだ。

(私はずっと孤独で、空虚で……サハルがいなければ、生きる寄る辺がなくて)

サハルは幼いころからその容姿と物言いで人を惹きつけてやまず、十代の終わりにはもう、何人もの男女が王子の言いなりだったが、その裏で何人の政敵や愛人が、城の地下洞窟に消えたのか……コトナはもう覚えていない。

(ここの闇が、私の世界の中心だった)

でも私は、まちがってた。

コトナは固くまぶたを閉じる。

ユラに会う以前のコトナはただ、サハルの心地よい言葉に従っていればよかった。

牢につながれた者たちは例外なく、大罪を犯した悪人ばかり。

だから闇の中で死病に取り憑かれる。

ならばその前に灰色の魔獣に喰われてしまっても、たどりつく場所は皆同じ。

(かつて私は、暗闇で絶対の神だった)

だけどユラにだけは、ごまかしはきかない。

声に出せ。言葉にするんだ、今の気持ちを。

「サハルは……私を使って、自分に都合の悪い人を消してただけ。私は神なんかじゃない、ただの人殺しで……だから山賊城塞(ウル・サファ)の人は私を『疫病(えや)みの子』って呼んでたんだよね」

コトナの両手が震えた。悔やんでも後の祭り。他人の甘言にのって簡単に力を使うなんて、本当はいけないことだった。

「今更すぎるけど……私はもう、闇使徒を動かして囚人を殺すつもりはないよ、私はただ」

泣きたい気持ちでコトナはユラを見つめる。

――あなたを助けたくて、ここに来た。

だけどこれ以上は口に出せない。

この洞窟は、かつて妖魔の糧となった者たちの怨嗟の念で満ちている。

そんななかで他でもない自分が……ユラにだけそんな調子の良い台詞を吐くなんて、いかにもおこがましすぎる。

必死の思いは声にならず、ユラもまた無言だった。二人の間に長い沈黙が落ち、コトナは絶望的な気分になった。

「……コトナ。ファティマは、どこにいる」

 その時、ようやくユラが低い声を出した。コトナはびくりと両肩を震わせる。

「王軍が山賊城塞(ウル・サファ)を襲撃した日、ファティマもおまえを庇って捕らわれたはずだ」

ファティマはどこだ、とユラはもう一度強くくり返した。

コトナは天敵を前にして動けなくなった獲物のように喘ぎ、

「あ、あの人は今……」

言葉を探しながら、そうか、と妙に得心した。

腹がすっと冷えていく。

ユラは私を救いに来たんじゃない、あの人を助けに来たんだ。

あの日。山賊城塞(ウル・サファ)最後の日。

街は炎で焼かれ、山賊たちが隣国へ行き留守だった頭領館も、あっという間に王軍の精鋭に占拠された。

――少し背が伸びたな、俺の柘榴石。

コトナはファティマの部屋で、もう会うことはないと思っていたサハルに再会した。

前王が病没し、王に即位したサハルは、自ら先頭に立って反対勢力を掃討しにかかったのだ。

かつては夢にまでみた邂逅のはずなのに、その瞬間コトナの背筋には悪寒が走った――踏みこんできた甲冑の男は、一国の王と言うよりむしろ、ざらざらした殺意を隠そうともしない、本物のならず者に見えたのだ。

その時、ファティマはコトナを自分の背に庇い、サハルに短剣をむけていた。

ならず者はふとファテイマに視線をやり、その短剣の切っ先が細かく震えているのに気づいた。

――ほう、これは。わざわざ出張(でば)ってきたかいがあったな。
 
形の良い唇が残酷につり上がる。

王が後ろに控えていた部下たちに合図すると、五、六人の兵士がコトナを取り囲んだ。

部屋を出たところで背後の扉が閉まる。

サハル、お願いだからファティマを殺さないでっ、コトナは泣きわめいたけれど無駄だった。

無理矢理輿に乗せられ、煙渦巻く街を後にこの城に帰って半年がすぎ……コトナの自室軟禁が解けたのはつい先月のことだ。

そして一昨日の晩、久々に王の部屋に来るよう命じられ――コトナは見てしまった。
 
王の部屋の中から、言い争う男女の声。

ついで荒く扉が開かれ、夜着姿の女が雉鳩(きじばと)のごとく廊下に飛び出してくる。

その白い手を掴んで引き戻し、扉に押しつけて、甘い言葉を浴びせながら無理矢理接吻するサハル――。

それは……いつもの、光景だった。

これまでにもコトナはたいがい人気の無い夜に居室に呼ばれ、地下への鍵を渡されてきた。

だから閨の睦事を目撃することも過去、何度か経験があった。

あられもない男女の抱擁を見せつけられて、なにも感じなかったといえば嘘になる。
 
……サハルは私を愛していると言うけれど、私は一体、この人の何なんだろう。

女でないのはたしかだ。かといって娘でもない。

そう言えばサハルはやわらかで優しいけれど、ユラのように、一度でもなにか自分で考えてみろと言ったことはなかったな――。
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その4に続く>>

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