【自作短編ファンタジー】山賊王とバーリヤッドの死神 4
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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『山賊王とバーリヤッドの死神』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は4回目。
『シンバ国、王都バーリヤッド城の地下水牢には、陰気な噂があった。
古代、シンバの王たちが冥府の神に生け贄の儀式を行っていた、暗くて深い洞窟には今――血に飢えた闇の獣が巣くっており、夜な夜な人の笑い声にも似た咆哮を上げるという。その声を聴いた囚人は、ことごとく死神の餌食になる運命だとも。さて、捕らえられた山賊ユラの運命やいかに?』
前回の「ラダールの花薬師」と比べると、多少ダークです。でもって、ゆきうさぎの中では勝手に、ユラの声は声優の諏訪部順一さんイメージで再生されてます 笑
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。
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山賊王とバーリヤッドの死神 4
だがあの夜、目を凝らしてよく見れば、王の相手はあろうことか芳香を放つ見知った女だった。
コトナは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、ただぼんやりと暗がりで突っ立っていた。
自分が何を見ているのかよくわからない。
だってファティマはユラが好きなはずで。
こんな場所でこんなふうに会うなんて――ありえない現実だった。
王はコトナの気配に顔を上げると、ふ、と唇の端だけで笑い、抱きすくめた女を解放するやコトナのほうへ押しやった。
『……ほら、ファティマ。このとおりコトナは無事だ。嘘じゃなかったろう』
震えだしたコトナをちらりと見やって、興が冷めたな、とサハルは呟き、話が済んだら戻れと言い残すや、居室の扉の向こうへ姿を消した。
『このこと、長には絶対に言わないで』
かんばしい花の香。乱れた胸元を手で隠し、扉を気にしながらファティマの懇願する顔が脳裏によみがえる。
『私なら平気。大丈夫だから』
その言葉に思わず目をつむった。あんな時でも、あの人は変わらず優しかった。
『それよりコトナ、あなたが来るのをずっと待ってた。長を救って。あの人は私たちを助けようとして捕まって、もう半月も地下に閉じこめられているの』
羞恥で頬を赤く染めながらも、ファティマは恐ろしいほど凛と立ち、冷静だった。
『サハルの隙をついて合い鍵を手に入れたのよ。でも私じゃ、あの人の処までたどりつけない。どうか長を……自由にして……あなたになら、できるはず……』
コトナははっと我に返った。
ユラがこちらを伺うように見つめている。
「あ、あの……ファティマはちょうど今朝から、将軍の息子の屋敷に移されたはずだよ」
「なぜ。監禁されているのか?」
性急な口調は、この男がそれをずっと気にしていたことの証だ。
コトナはファティマからあの時こっそり託された鍵を握りしめた。
「ううん。相手がファティマを気に入って、ぜひ妻にって、前々から言ってたらしくて」
下げ渡されたのだ――とは、言えなかった。
あでやかな衣装に身を包めば、どこか妖艶な雰囲気をまとうファティマは、虜囚ではなく、すでに王の愛妾として身分を保障されていた。
サハルは利用できる価値があれば殺さず駒にする、そういう男なのだ。手に入れた女をつねに傍らにおいて着飾らせ、狙った相手の目にとまるようにしたのだろう。
「……そうか。ならば、よかった」
ユラは複雑な表情で、深いため息をついた。
「おまえにまだ言ってなかったが、じつはあれは、俺の腹違いの妹なんだよ」
「……え? い、今なんて」
「ファティマ本人も知らぬ話だ。そうか、あいつは今、将軍家にいるのか……。将軍はなかなか気骨のある武人だし、息子も人の好い男だ。二人とも妹を悪くは扱わないだろう」
はは、ユラは唐突に声を上げて笑い出した。
「ぬかったなぁ。俺はおまえもファティマも辛い思いをしているとばかり……。山賊城塞(ウル・サファ)の再建もようやく目途がついたし、やっと助けてやれると勢いこんで忍びこんだら、このざまだ」
サハルのやつ、なにからなにまで読んでいやがったな、と舌打ちする。
「おそらくおまえを攫(さら)った最初から、いずれ俺をこの牢にぶちこむ算段だったんだ。悔しいが、あの色男は阿呆な新王なんかじゃない、そうとうな切れ者だ。もう十分だから、さっさと戻れ」
コトナは必死にかぶりを振った。
「だだをこねるな。どのみち俺はならず者の山賊で、王の目の上のこぶだ。先がしれている――」
こけた頬を歪ませ、ユラは笑んだ。
「飯と水は数回もらった。だがこの怪我、この汚水じゃ……いまいましいが、病でぶっ斃(たお)れるのも時間の問題だろうな。なあ、俺はもう日の目を拝めない。そうなんだろう?」
コトナは唇を噛んだ。なにも言い返せない。
「このバーリヤッドの洞窟は、人が住む以前から深い死の闇に閉ざされた禁足地だった。どこの馬鹿が始めにその禁忌を犯し、闇に魅入られたのかは俺も知らんが、今やここは、この国の病巣そのものだ。おまえみたいな子供は、こんな危険な処に長居すべきじゃない」
でも安心しろ、じきにこの闇は祓われる。かならずだ、と力強くユラはコトナを見た。
「正直、妹の行く末だけは心配だった。ファティマはおとなしそうに見えて、ひどく情の強い女だ。昔からこうと決めこんだら何をしでかすか、わからんところがあってな」
将軍家へ嫁ぐことになったのも、あながち王の差配じゃなく、この死臭漂う城から脱出するためにあいつ自身が打った策かもしれんぜ、とユラは嘆息すると、
「さっきの質問な。最後だから大盤振る舞いで答えてやる。コトナ、傲慢かもしれんが、俺は暗闇に捕らわれたままのおまえも……救ってやりたかったんだよ」
だがまぁ、好きな男に問題があっても傍(そば)にいたいってのは――よくある話だしな、清々した顔で苦笑する。
「おまえがサハルに首ったけなのは知ってる。早く日のあたる場所に戻れ、ここは冷える」
ちがう。コトナは胸がいっぱいになった。
「次に会う時は……俺が鬣犬(たてがみいぬ)に喰われる時か。俺はおまえを恨まない。だから遠慮するなよ、自分が生き抜くことだけ考えろ」
「……やだぁっ」
コトナはしゃにむにユラの身体にしがみついた。驚いて身をひこうとする相手の首に、両手を回してぎゅうっ、引き寄せる。
わかってないよ。この人はなぁんにも、わかってない。
ユラの温もり、心臓の音。
暖かい。この人はまだ生きてるのに、どうして――。
コトナの震える唇とユラの唇が、重なった。
「おい、コトナ……?!」
目を白黒させるユラに、とうとう我慢できずコトナはわめいた。
「馬鹿っ! どうしてわかってくれないの?! 私は、あなたが、好きなんだよ! サハルじゃない! サハル、なんかじゃ……っ、なのに死ぬ話なんて――簡単にしないで!」
「な……?? はっ、冗談はよせ……」
ユラは初め笑い、ついで真顔で沈黙した。
「――本気で、言ってるのか?」
コトナはこくん、首を縦に振る。
「けどおまえと俺じゃ全然、年が違いす……」
「私、子供じゃない! 子供扱いするな!」
言いながら、ああ、これじゃ本当にただの駄々っ子だ、とコトナは情けなくなった。
その5に続く>>
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