【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 18
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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
これをこのブログ用に加筆修正している間に、元原稿の1.5倍くらいの量になってしまいました 汗
楽しんで頂けるよう記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
今日は昼に幼稚園のママ友が家にきてランチ会なのです~~。急いで片付けて、赤ちゃんズの遊びコーナーを用意しておかねばっ。(2歳ちゃんが複数来る予定)
しかし、はて、あのくらいの子供のおもちゃってなんだっけ~ 汗
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 7ー2(18)
――天音。
それは心臓をわしづかみにする、どこか凄絶な光をともしたまなざしだった。
――俺を救ってくれ。
焦点の合わない瞳。溺れた者が藁を掴むような切迫した顔。
どうしたの、と驚いて聞いても相手はうわごとをくり返すばかり。
この人、このまま苦しみに飲まれて死んじゃうかもしれない、そんな恐怖が胸をよぎり、夢中でさしのばされた腕に飛びこんでいた。
(後悔、してない……)
まさか、あんなふうになるなんて。
(忘れてしまったの……本当に、全部?)
よく寝られたかと聞かれて、とっさに嘘をついてしまったけれど。ずくずく、胸がうずく。
(なにも覚えていないなんて、嘘よね?)
そうだ。いくら意識が朦朧としていたからって、すべてを忘れるわけがない。
天音には黄龍の態度が理解できなかった。
(だけどもし、このひとに昨日のことを思いだしてと言ったら……)
もしかしてあのひどい苦しみまでも、一緒に呼び覚ましてしまうんじゃないだろうか。
(だめ。口をつぐんでいよう)
とっさに、そう判断した。
――それであなたが救われるのなら。
あれが正解だったのか、わからない。
なにもかも、初めてだったから。
黄龍は手負いの獣のように危険で傷ついていた。
怖くなかったと言えば嘘になる。
だけど、あんなふうに熱情を浮かべた瞳で見つめられ、何度も激しく求められたら……すべてを捧げたって惜しくないと、心から思えた。
肌を合わせてみて初めて、どれだけ黄龍が愛に飢えていたのかわかった気がした。
知らなかった。この人はこんなにも、生きているのが辛いんだ。
ただただ彼の哀しみが胸に沁みて――涙が出た。
そうしたら黄龍は泣くな、悪かったと途方に暮れたように謝って、今度は壊れ物を扱うようにひたすら優しく、大事にしてくれたのだった。
身体も心も溶けてしまう感覚を、何度くり返しただろう。
それでようやく安心したのか、やがて黄龍は何度もせつなそうに睦言を呟きながら、天音を抱きかかえたまま安心したように眠ってしまって。
――どうしよう、私。こんなことになるなんて。
今更のように、あのあと黄龍から離れたのを激しく後悔していた。
愚かだったのかもしれない。
本当は青年の隣にいつまでも留まっていたかったのに……、ただ乱れた寝具や散らばった衣服が目に入ったとたん、猛烈に恥ずかしく、いたたまれなくなって。
息を殺しながら逃げるように好きな人の腕を抜け出し、自室に戻ってしまったのだ――。
この人の過去に、なにがあったんだろう。
なにがそれほどまでに、黄龍を蝕み、苦しめているんだろう。
焼けつくような思いで、真実を知りたいと思う。
でも聞けない。なんとなく感覚でわかるから。これは私からは聞いちゃいけない話なんだと。
(黄龍。今度は私が、あなたを守るから)
今放りだしたら狂ってしまうんじゃないかというくらいの激しさを受け止め続けたせいで、正直まだ今も身体のあちこちがうずいている。
このまままた部屋に戻り、黄龍と抱き合って眠ってしまえたら、どんなにいいだろう。
ぼんやりそんなことを思ううち、いつのまにか、目的地についていた。
上空には青空が再現され、はるか遠くに地球がおぼろ月のように透けている。
目の前には湿原、奥には針葉樹の森が広がり、野性味溢れた小花が緑に混じって咲いている。
季節は初夏。フランスのカマルグを再現した塩性植物園は、他のどの植物園よりも天音の心を打った。
「綺麗ねーー」
「気に入ったか?」
黄龍は今は凪いだ海のように静かだった。
「鳥肌が立つくらい」
「残念だよな、この風景がもう地球に存在しないなんて」
「そうね……」
温暖化の進む地球では海流が温められ、極端な異常気象が起こっている。
欧州では干ばつの夏と極寒の冬が交互に襲い、国立自然保護地域に指定されていたカマルグの湿原も、ほぼ姿を消してしまった。でも。
「黄龍」
気づけば想いが口を突いてこぼれ出ていた。
「私が気象学を志したのはね、人が壊してしまったこういう原形を、いつか復元できたらいいなぁって思ったからなの」
今は無理でも、いつの日にかかならず――。
19に続く>>
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