【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 17
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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
これをこのブログ用に加筆修正している間に、元原稿の1.5倍くらいの量になってしまいました 汗
でもって今日明日分は、記事上げするの、胃が重い。。。でも物語は書きたい。矛盾してるなぁ。
がんばって記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 6-5(17)
(一体、いつまで……)
――あとどれくらい、一緒にいられるのか。
薄い靄(もや)がかった頭痛を振り払うようにまぶたをしばたく。
大丈夫だ、視野はすでに回復している。あの闇に堕ちるような倦怠感も。
「なあ、天音」
「うん?」
確認しなければ。内心、心臓を刺されるような決意でようやく質問を口に出した。
「恥ずかしながらよく覚えてないんだが、俺は本当に昨日は、あれからずっと部屋で一人、寝ていたんだよな」
「……うん」
その返事に乾くような失望を覚えつつ、むしろよかったじゃないかと胸を撫で下ろす。
天音は嘘をつける女じゃない。
起きたら部屋が散らかっていたので記憶は多少飛んだようだが、それでは昨晩は本当にあれを発症しなくて済んだのだ。この身体の奇妙な弛緩も、低酸素症状の名残だったのか。
――ファンロンの大馬鹿野郎っ。命を粗末にするなっ。皆が皆、君のように強くはないんだぞ!
オリビエが血相を変えて自分を殴った数年前のあの日、ソマリアで、俺は部下を率いて生物兵器が使われた直後の戦場に特攻を仕掛けた。
おかげで絶望的だった戦局はこちらに優位となったが、代わりに部隊の半数以上が神経ガスにやられたのだ。
悪夢や幻覚を見たり、記憶があやふやになったり、身体中の痛覚が制御できずに暴走したり。
時を経てもまったく回復しない神経毒の後遺症に絶望して、命を絶った奴もいる。
だが人は戦えば負傷するものだ。
そして映画や物語のように都合良く傷が治るとは限らない。
生き残れればもうけもの、一生癒えぬ傷を背負って生きていく、それが一兵士の心構えというものだろう。
(感情と体調をコントロールさえできれば、この障害はそれほど怖くない)
ただ、ファンロン、あんたぁ鬼だと胸をかきむしる部下の苦悶に満ちた顔は、今でも時折、脳裏をよぎった。
(俺は、いつまでこうして影に囚われながら生きていくんだろう)
灰色の、諦めにも似た寂寥が胸を焼く。
「……もう起きても、大丈夫なの?」
いつまでも黙っている俺を不審に思ったか、天音が心配そうな顔でこちらをのぞきこんできた。
「ああ、平気だ。今日は一日、つきあうぞ。好きな花でもなんでも、見に行こう」
そう言うと天音はうん、とつぼみが開くような笑顔でうなずいた。
7
その昼下がり、黄龍と二人で訪れた湿原は、楽園(エリユシオン)の名に恥じない美しさだった。
午前中は各国が威信をかけて築いた様々な様式の植物園(ボタニカルガーデン)を見て歩き、久しぶりに色とりどりの花々に囲まれてすごした。
ホテルに戻って昼食をとり、目当ての場所に向かう途中、天音はラフな濃紺の丸首シャツに細身パンツ姿の黄龍を横目で見上げる。
(やっぱり……)
忘れてしまったのだろうか。昨晩のことを。
黄龍の顔を見た時、まさか、という頭を殴られたような鈍い衝撃と同時に、妙に腹の底で納得する自分がいた。
昨日の黄龍はあきらかに様子がおかしかった。
軽い錯乱状態にあったと言ってもいい。
原因はやはり、あの小型機を脱出した時にあったとしか考えられなかった。
宇宙空間に出たとたん、妙に深く息を吸えるようになったのだから。
はじめはそういうものかと思っていたけれど、足取りのおかしい黄龍を見てすぐ、誤解に気づいた。
(たぶん、黄龍は私をかばってくれた)
そうでなければあんな血の気のない顔で、ホテルのベッドに倒れこむわけがない。
(どうして?)
なぜそんなに自分を犠牲にしてまで――。
到底立ち去ることなどできず、ずっと黄龍の部屋でそばについていた。けれど、その答えを持っている本人は目の前で昏睡していたのだ。
(フロントに連絡して、お医者様に診てもらったほうがいいのかしら……)
どうしよう。起こせと言われた時刻はとうに過ぎてしまった。
そっと頬に手を当てると、瞼がかすかに動いて反応する。
浅かった息は最初より明らかに安定してきていた。体の痙攣も止まったし。
(下手に起こすより、このまま休ませて様子を見た方がいいんじゃないのかな)
タオルで額の汗を拭きながら時折、苦悶する表情を見つめていると突然、黄龍が薄目をあけてこちらを見たのだ。
18に続く>>
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