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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 25

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
物語は佳境にさしかかっております。この先はたぶん最後までジェットコースター♪
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、天音の気持ちとは裏腹に不穏な計画が進行していくのだった――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 9ー2(25)

「あー、つまんねえ。こんな生っちょろいトレーニングなんかじゃなく、俺はあんたと実戦がしたかったぜ」

「無理言うな。ここは一般施設だぞ」

浩宇はやれやれと肩をすくめてみせると、

「そうだ黄龍。この衛星、前にオリビエもいたんだって? あいつもう結婚したのかよ、美人の彼女と」

あのなまくら医者、暇さえあれば許婚と連絡取ってたよなー、ちくしょう、いいな結婚、などとぶつぶつ言いながら、隅に置いてあった鞄を投げてよこす。

それは一見ジム用のバックパックに見えて、実際のところ、相当な重量のある代物だった。

「あんたのサポートしてるあのお嬢さん、天音だっけ? あの娘も子供って聞いてたわりには、ちゃんと女だよな。肌がこう、もちっとつやつやして、いかにも触ってみたくなるっていうか……」

俺はすばやくバックパックの中身を確認する。
ごついライフル一挺に防護服一式、拳銃に弾薬ケース、その他もろもろ。
この間の受け渡し分と合わせれば、だいたいこれで動ける目処がたつ。

「浩宇、あいつをそういう目で見るな。天音はそういう類いの女じゃない」

すると浩宇はうつむいて喉を震わせ始めた。

「まいったな。あんたマジでやばいって。本当にあの鬼黄龍か? そんなで明日の決行、本当に大丈夫なのかよ」

そのまま腹を押さえて立ち上がると、肩を上下させて笑いながらこちらに近づいてくる。俺は静かにバックパックを床に置いた。

「女なんてよりどりみどりのくせに。噂の医局の美女にまで、しつこく追いかけられてるんだろ。高嶺の花なんか追いかけてないで、適当なところで発散しろよ」

「黙れ」

「ああ悪い。怒るな」

大概の男なら、ああいうセクシーな女は垂涎物なのに、と浩宇は目尻の涙を指で払いつつ、また噴き出した。

「あんたの人間嫌い、そういや女だけじゃなかったなぁ。昔、バイドアでよく知らない男どもから夜這いかけられた時なんて――」

傑作だったよな、朝になると瀕死のやつらが情けない格好でごろごろ周りに転がってて、と軽口をやめる気配がない。

「そんなおっかない鬼が、堅気の娘に本気とか。――冗談も大概にしろって」

笑いながら酔っ払いのように腕をふりあげてくるのを、するどく手刀で打ち払い、瞬時に立ち上がって低い体勢をとった。

はたして相手の手には、いつのまにかキラリと光るバタフライナイフが握られている。

おおかたさっき腹を押さえた時に、手にしていたのだろう。

「へえ。やっぱり腐ってもバイドアの鬼は健在か……」

浩宇はすっと笑みを顔から消すと、今度は容赦なく切りつけてくる。

ナイフがしゅ、と空を切る音がした。

こいつは昔からこうだ。
笑ったり泣いたりしながら平気で人を刺せる。
貧困街で育ったからか、こういう不意を突く接近戦がもっとも得意なのだ。

ただ踏みこみが以前より一段と深く、速くなっている。
俺は冷静に刃筋を見切り、わざとかかとの重心をずらした。

こうするとわずかに体勢がくずれる。
はたしてその一拍を逃さず、浩宇が突きこんできた。

その腕をゆるく捕らえ、相手の力を使って後ろ手にひねり上げると、浩宇はうめいた。息つく間をあたえず、背を膝で押さえて一気に床にたたきつける。

派手な音が部屋に響いた。

「ぐはっ、ってえ、騙しやがったなクソが!」

「ひっかかるほうが悪い。どういうつもりだ、これは」

「怒るなよ。ほんの冗談だろ」

「おまえは冗談で、味方を刺すのか」

そういう面倒臭い部下は必要ない、と俺は容赦なく相手の腕を締め上げた。
痛みに耐えきれずナイフを取り落とし、やめてくれ、と浩宇が声をしぼった。

「そうやってすぐ調子に乗って、一番危ない橋を渡りたがる。誰の真似だ? 尊敬してやまない、あの兄か」

おまえの義兄はもっと冷静に状況を読んでいたぞと耳元で囁くと、浩宇はとうとう観念したように抵抗をやめた。

「参った。痛っ、あんたに従う、異存はない」

「そうか。ならまずは俺の質問に答えろ」

俺は嫌味をこめ、拳でぐりぐり浩宇の後頭部を小突いてから、膝をどけて立ち上がった。

「さっきの打ち合わせで、『梟(フクロウ)』に衛星入りを一日延期させたと皆に言ったよな。どうやった」

浩宇は鼻を鳴らして横をむく。

「……女と仲良くなって、嘘の情報を掴ませた」 

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 26に続く>>

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