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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 26

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
物語は佳境にさしかかっております。この先はたぶん最後までジェットコースター。しかし黄龍って天音と一緒じゃないと、とたんにハードな人生だな……汗
どうぞ、よろしくお付き合い下さい。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、天音の気持ちとは裏腹に不穏な計画が進行していくのだった――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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yukiusagi-home.hatenablog.com

宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 9ー3(26)

なに、と思わずするどい声が出た。浩宇は頭を押さえ、ふてくされたように黙っている。
俺は浩宇を睨みつけた。

「おまえこの衛星でもまた、後先考えずに女に手を出してるのか。長に忠告されたはずだぞ、ほどほどにしないと身を滅ぼすと」

すると浩宇は床に唾を吐いた。

「いやだ」

「……」

「俺は女が好きなんだ。太いのも痩せたのも、若いのも年増も。酒も煙草も薬もダメな場所で、他になんの楽しみがあるってんだよ」

そう傲然と主張されると返す言葉が出ない。

「俺がどこでどんな女となにしてようが、詮索無用に願う。あんた、俺のお袋か?」

「いや、しかし」

「しかもこちとら残念ながら、あんたみたいになんっも努力しなくても次々言い寄られるような容姿をしていないんだって」

「嫌味か」

「嫉(ねた)みだ、馬ー鹿。むこうにその気がないんじゃ、こっちから言い寄るしか方法はないだろうが」

だいたい諜報ってのは、もともとそういう性質のもんだろう、と浩宇は毒づく。

「相手を騙し、信じさせて利用し、うまく掌で転がして情報を得る。男も女も関係ねえよ」

皮肉な笑いを口に浮かべると、

黄龍こそしっかりしろよ。あんたがいつまでたっても任務を遂行しないもんだから、やっこさんは業を煮やしたらしいじゃないか」

「なに?!」

浩宇は立ち上がり、ふん、と鼻を鳴らした。

「二日前だ。とうとうあんたのお嬢さんに、帰国の辞令が出たってよ。日本の環境庁から」

本人から聞いてなかったのかと問われてぐっと息を飲むと、

「はっは。へーこりゃ、傑作だ。黄龍じつは、あんまり信用されてなかったりしてな?」

「……」

「あ、悪りぃ、本気にするなって」

浩宇はちらりと横目で俺を眺め、ま、あんたが、あの娘を独占したい気持ちもわからなくはないけどな、と言った。

「ああいう純粋なのは貴重だよ。そりゃ、この世のどこかにはいるかもしれないが、俺たちみたいな輩がめぐりあう確率ははてしなくゼロだ。そもそも住んでる世界がちがう」

黄龍も人間だったってことにしておいてやるよ、と浩宇は慰めるように俺の肩を叩いた。

「救われたかったんだろ、手元に置いて」

「……」

けど、救われたいのはみんな同じだ、と浩宇は独りごちた。

「さっきは落とし前とか言ったが、俺はあんたが上にどう言い訳するのかなんて正直、興味はねえ。とにかくもう潮時だってことだよ、黄龍――」

いつまでも甘っちょろい夢に浸ってないで、そろそろ現実見てくれ。頼むよ、と頭を下げられては、うなずくしかない。

たしかにこいつの言うとおりだ。
悪いのは全面的に自分なのだから。

おそらく皆は俺の真意を測り損ね、そこはかとない不安に駆られていたんだろう。
すまないことをした。

「わかってる。作戦は予定通り決行だ。これから双頭鷲(ドッペルアドラー)の集合地点へむかう」

俺は肩に食いこむバックパックを背負いながらナイフをひろい、浩宇に返してやった。


         10

集合地点で担当幹部から指示を仰ぎ、配置につく。
宵闇にまぎれ、浩宇と二人で第二倉庫へ向かう途中のことだった。巨大コンテナの片隅から細く誰何する声がしたのは。

ここはISSOM西地区の倉庫街。一番から十四番まで続く倉庫にはそれぞれ衛星で消費する食料や燃料などが備蓄されており、この倉庫群を破壊すれば衛星の四割の物流が混乱に陥る。

日中は店の卸しとして稼働するため人出も多い。だが窃盗防止の警備が厳しいため、夜間はほぼ一般人の立ち入りはないはずだった。

「今、なにか聞こえなかったか」

足をとめて注意深くあたりを見回すと、はたしてまた幽霊のような声がすぐ脇のコンテナから聞こえてきた。

襲撃開始時刻には間があったので、まだ二人とも着替えをすませておらず、ジムに行ったままの姿だ。ここで誰かに見とがめられるとあとがまずい。

しかし浩宇がものも言わずコンテナの奥へ分け入っていくので、俺も後に続いた。その足取りからなにか知っているようだったからだ。

「今週は食品倉庫の一角で、ワイン祭をやってたろ。サザンからの出店も多かった。その中に奴らの息がかかった店が何軒かあって、裏でいかがわしい客引きをしているのを見かけたんだ」

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 27に続く>>

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