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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 11

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こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになって――?』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 5-3(11)

なんでもないことのようにさらりと言われて、返す言葉を失った。

普段同じように生活していても、黄龍は天音にはうかがい知れぬなにかを抱えていたんだ。

「だけどさっきわかっちまった。俺のそんな考えは独りよがりだったってな」

「独りよがり?」

「天国側で暮らしてる奴らの多くは、たぶん偽善者なんかじゃなく……おまえみたいにただ、善良なだけなのかもしれない」

天音は胸をつかれて黄龍を見た。

「ありがとな。それがわかって、少し救われた気がした」

どこかぶっきらぼう黄龍は言う。

ちがう。どうしてありがとう、なんて言うの。

本当に大変な思いをしてきたのは、あなたのほうなのに――。

「おいっ、だからどうしてすぐ泣くんだっ」

「わ、わかんない……」

「ていうか、こんなところで泣くなよ、俺が泣かせたみたいだろうが」

「ふえっ、ごめんなさ」

「また謝る。そうやってすぐ謝るの、やめろって言っただろ?」

「ううう」

「あーもう、はやく泣き止め!」

そんな無体を言われても。蛇口をひねるみたいに、涙はすぐにはとまらないわけで。

パンが入った袋を抱きしめたまま歯を食いしばっていたら、今度は鼻水が大変なことになってきてしまった。

だけど両手がふさがっていて、どうにもこうにも身動きが取れない。

と、しびれを切らしたように黄龍が自らの荷物を遊歩道脇のベンチに放り出した。

(ええっ?)

一瞬の出来事だった。風のようにすばやく体を引き寄せられて、頬に堅い感触があたる。

鼻腔をつく疑煙草の苦い香り。

(うそ)

抱きしめられている。今、黄龍の胸の中に。

「は、離してっ」

「いやだ。さっきから何人、知り合いとすれちがったと思ってる。後で冷やかされて迷惑するのはこっちだぞ。泣きやむまで離さない」

知り合いとすれちがった? 下をむいて歩いていたせいで、まったく気づかなかった。

「だけどこんなふうにしてたら、逆に変な誤解されるかもしれないじゃ……」

それに黄龍の服に鼻水がついちゃう、と必死で身をよじろうとすると、

「俺が常日頃、冷血漢って陰口たたかれてるのは天音だって知ってるはずだ。担当の研修生いびって泣かしてたって噂流されるくらいなら、誤解されるほうがまだマシだ」

あ、と息を吐く。そんなに力を入れられたら呼吸が。

黄龍、息、できな」

吐くばかりで吸えないと声も出ない。

冗談でなく――窒息してしまいそうなのだけれど。

(こんな状況で、どうして)

心臓が締めつけられるようにきゅっとする。ほわほわと腹の奥から熱いものが湧いてきて体を包む。

堅い胸板を感じながら思わず目をつむった。

なぜなんだろう。もう少し、このまま抱かれていたいような。

「なあ天音」

「ん」

「今度の週末、Bラボに連れて行ってやろうか。及第祝いに」

「え? Bラボって……あのエリュシオン?」

ISSB―Lab(国際宇宙植物園)、Bラボ。通称『楽園(エリュシオン)』は宇宙空間における植物生育専門の研究所である。

初代所長は英国人ーー発足当初は実用だけでなく外観も考えられて設計された英国風植物園(botanical laboratory)だったというのは有名な話で、今でも観光収入のある珍しい宇宙ステーションなのだ。だがしかし。

「エリュシオンのある衛星までって、ここからじゃ定期船では日帰りできない距離でしょ」

黄龍がようやく腕の力を少し緩めたので、深呼吸しながらそう言うと、

「休暇を取って、数泊すればいい。どうせ有休は余ってるんだろ」

「とっ、泊まりって、黄龍と?!」

「なーに慌ててるんだ。ちゃんとホテルは二部屋取るぞ」

「あっ、あ、そう」

「俺はたいがい裸で寝てるから、一緒の部屋じゃ、おまえには刺激が強すぎるだろうしな」

「……冗談でしょ?!」

いいや昔、昼夜関係なく動かなきゃならない任務があって、いちいち専用服に着替える時間が惜しくなったんだ、と黄龍は嘘か本当か判然としない理由を呟くと、

「ま、今さら二部屋にしたところで、よだれ垂らしてソファで爆睡してるおまえの顔なんか、いいかげん見飽きてるけどな」

「よ、よだれなんて私」

垂らしていたのだろうか、まったく記憶にないけれど。

焦って顔をあげると黄龍は意地悪くにやにやしている。

ああ、またからかわれた。地力がちがうのはもう歴然としているんだから、少しは手を抜いてくれたっていいのに、この人はっ。

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12に続く>>

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