【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 13
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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 6-2(13)
「え? よりたいところって」
サザン・アステロイドだ、と行き先を告げると天音はこちらを信じ切った顔で頷いた。
「うん、いいよ」
で、なにしに行くの、と次にくる質問を想定して腹に力を込めたのに、その問いかけはいつまでたっても来なかった。
「……理由を聞かないのか」
「聞いてもいいなら聞くけど、機密規程に抵触するかもしれないから」
先ほどとは打って変わった静かな声に思わず顔をむけると、天音は一心に星の瞬きを眺めていた。
「でも私、サザンに入場できるの? この船内で待ってようか?」
こいつはどうして、いちいちこうやって他人を思いやるんだ。
「入れる。おまえは俺の関係者だからな」
気づけばとっさに応えていた。大丈夫だ。なぜって天音は行くなと言った場所には絶対に立ち入らない。
「よし、じゃあ少し急ぐぞ。安全ベルトはしっかり締めてるよな?」
「うん。あ、でも私、ジェットコースターとか酔うタイプだから……」
大丈夫かな、と不安そうに口元が歪む。触れたくなるくらい柔らかそうな、天音の唇ーー。思わず魅入っている自分に気づき愕然となる。
「ばぁか。無重力下じゃ地上とは感じ方がちがうんだよ」
わざと邪険に返してやったのに、ふうん、と目を丸くする天音をもっと驚かせたくて、曲芸飛行のまねごとまでやってみせてしまった。
天音はきゃあきゃあ声をあげて喜んだ。普段なら絶対にしない行動をとっている自分に呆れつつ、自覚しないわけにはいかない。
天音の喜ぶ顔が見たい。
くしゃっと笑うとえくぼのできる頬も、透けるように細くて長い髪も、あの白い腕も……力のかぎり抱きしめて、自分だけのものにしてしまいたい。
(正気かよ。任務はどうするんだ)
こいつにだけは、指一本たりとも触れてはいけないのに。
わかっているからこそ余計に、まるで炙られたように体の芯が熱く疼く。
(くそっ)
もうごまかせやしない。天音は危なっかしくて放っておけなくて……最初に抱いたのは絶対、父性愛に近い感情だったはずだ。
なのにいつの間に、こんなに意識するようになっちまったんだろう。
衝動を振り払うように操縦桿を強く握る。
小惑星サザンは飛行ルートのちょうど真東にあって、楽園へも二時間ほどだ。
元は資源採掘惑星として開拓されたのだが、採掘跡を再利用するために国連が出資を募ったところ、地球からの投資があとをたたず、今や様々な商業施設が建ち並ぶショッピングモールの様相を呈していた。――表向きは。
船を関係者専用置き場につけて中に入ると、天音はさっそく雑貨や食料品店エリアの案内板に釘付けになった。
「天音」
「なに?」
「悪いが……小一時間ほど、外してもいいか」
ここでの買い物はこれでしか支払えないから、と胸元から虹色に光るカードを取り出して渡す。
「え、でもこれって黄龍のお金でしょ」
「俺の都合で待たせる間なんだ、なんでも買っていい。車とか船レベルじゃなけりゃ、大概のモノはそれで買えるはずだ」
そう言うと、天音は目を丸くした。
「な、なんでもって、嘘。黄龍、太っ腹?!」
収入のわりに、使い道がないだけだ。
「私、宝飾品とかドレスとか売ってるところに行っちゃうかもよ?!」
「……おまえがそういうモノを欲しいなら、買えばいい」
とにかくこの休暇は息抜きに来たんだ、一人にして悪いが楽しんでこいよ、と言うと天音は頬をぽっと染めてカードを握りしめた。
その仕草にひそかに見惚れる。
こういうところが地味に可愛いよな、こいつ。
「ありがとう黄龍、じゃ、ちょっと行ってきますっ」
「ああ。二時間後にここで待ち合わせな」
「うんっ」
なんだかんだ言って天音だって年頃の女なんだ、いつも味気ない研究施設で制服ばっかり着てる生活じゃな、と活気溢れる商業施設の中に吸いこまれて行く背中を見送ってから、きびすを返した。
大通りから脇へそれ、いくつもの細い路地を通り抜け、突き当たりの薄暗い中華飯店へ踏みこむ。すると店番をしていた馴染みの顔が、ああと頷いた。
14に続く>>
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