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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 31

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
そして、よく見たら読者様の登録数があと1人で300人の大台に!
ここ1ヶ月ほぼほぼエリュシオンしか記事にしていないというのに、登録して下さった方、本当にありがとうございます~~!!! 多謝多謝。
 
ほんとはね、近況報告とか、いろいろ書きたいことあるんですけどもっ。
とにかく終了まであとちょっとー、もうちょいなので、この話が終わるまで、この記事だらけで突っ走ります……(苦笑)そして今日は昨日に引き続き、また小学校へPTA役員会議があるのでお出かけであります。最近大きい改変があって一波乱ありそうな予感。早く帰ってこられるかな~、どきどき。行ってまいりまーす。


【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 12ー2(31)

それより三分ほど経過した後だったろうか、通路を急ぎながら、浩宇が話しかけてきたのは。

 ――突然、びっくりしたろう天音さん。俺、浩宇って言う。黄龍とはソマリア戦線からの腐れ縁ってところで。以後お見知りおきを。


青年は子供をあやすような顔で片目をつぶってみせた。

――あー、やっとまともに話せた。東ゲートはすぐだ、もう大丈夫。なあ天音さん、エレンから聞いて、どうしても一度確認したかったんだが。あんた、黄龍に腐った豆食わせたんだって?

知ってたか、黄龍ソマリアじゃ鬼って呼ばれてたんだぜ、と浩宇は痛快そうに笑った。

非常事態にあることは重々承知しているだろうに、いたって脳天気な調子だった。

天音さん、あんた、鬼相手にたいした度胸だよ。

たぶん安心させてくれようとしていたのだ、浩宇は。

青年二人は明らかにこういう非現実に場慣れしていて、天音だけが素人で。

黄龍は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたが、何も言い返さなかった。浩宇を信頼していたからだろう。

その後、非常階段を三階ほど登ったあと、搬入口から一般通路へ出、三人で東ゲートの入り口をくぐった。

――なあ浩宇、おまえはサザンでも綱渡りみたいな諜報をやってたんだ。いいからもう、天音とこの衛星を脱出しろ。

黄龍は天音の頭ごしにそう浩宇に言った。

――言いたくはないが、おまえが長って呼んで慕ってる紛争抑止軍の作戦参謀は、白人至上主義者だ。あいつは危なくなったら白以外は切り捨てる腹だぞ。

――なに言ってるんだ、黄龍

しかし浩宇は笑っただけだった。

――んなこたあ、先刻承知だっつの。だから生意気な傭兵を始め、一癖ある部下たちが嫌味みたいにあんたの下についてるんだろ、なあ隊長。

浩宇は通路のつきあたりにある扉につくと、暗証システムに器具をつないでなにやら操作した。

その手慣れた様子は先ほどまで天音に軽口を叩いていたのとはまったくちがう、玄人の工作員といった風だった。

やがて半分だけ開いた扉を器用に蹴り飛ばしてこじ開けると、

――よし開いたっ。この先はちょっと散乱してる。なんとか堪えてくれよ天音さん。

その言葉どおり、東ゲートの各搭乗口にはところどころ、大小の真っ赤な血だまりができていた。

その周辺には肉塊の破片のようなものも飛び散っている。

うろたえていると、見るな、と黄龍がまた横で言った。たとえ見えても今は考えるな。

あの時、天音はもうほとんど泣きそうだった。

そんなことを言われたって怖いものは怖い。

生理的に受けつけないものは受けつけない。

足がすくんでうまく動けず、ぬるぬるした床に脚を取られると、黄龍が無言で背中に腕を回し、抱きかかえるように支えてくれた。

私、今ものすごくお荷物になってる。まるで赤ちゃんか幼児みたいだ。

天音がいたたまれない気持ちでいるのを察したのか、黄龍の手の力がわずかに強まった。

なだめるように軽く脇を叩かれる。

ああ、わかってくれてるんだ。見上げても今、視線を返してはくれないけれど……本当にこの人は優しい。

言葉に表せないくらい感謝しているのに。浩宇、どの小型機が離陸可能だ、とその後、頭越しにまたおそろしく事務的な会話が始まって。

四番は手配済みだ、すぐ出られる云々と浩宇が答えたあと、おまえが天音を連れて逃げろとまた黄龍がくり返した。

――昨日、奴らに嘘の情報を掴ませたって言ったな。浩宇、状況からしておまえは『鷺(サギ)』と接触し、騙したんだろう。なぜあんな奴を選んだんだ? 『鷺』はことさら裏切り者を許さない。『梟』の手前もある。失態を取り返すために、十中八九、追ってくるぞ。

すると、俺は断る、と浩宇は今度ははっきり拒否したのだった。

――それは命令か、黄龍。俺は隊長命令じゃないならここに残るぜ。『梟』がどうしても許せねえんでな。それに俺は『鷺』を、それほど嫌いってわけでもない。

浩宇、と叩くように黄龍が言うと、

――まあ、いいだろ。天音さんは、あんたが連れていけよ。見ろよ、お嬢さんの顔。あんたじゃなきゃ絶対に嫌だってさ。だいたい本当は誰にも託したくないくせに、やせ我慢なんかするなって。たまには優秀な部下に背を預けてみたらどうだ?

あの時……浩宇の口元は笑っていたが、目には押し殺したような怒りが見え隠れしているようにみえた。

――それに、私怨に飲まれるなって言われても無理だ。俺は死んだ兄貴たちの十字架を背負って、今ここに立ってる。だから逃げない。地獄で死んだ仲間を天国にやるまでは。

その直後だった。

四番小型機の入り口まであと数メートル。そこで突然、黄龍がなにか叫び、天音をつきとばして横に飛びすさる。

同時に小銃を打ち合うするどい銃声がして、目の端でふいに、ばたりと浩宇が倒れた。

――ハオユー、この腐れ傭兵め。スペツナズの犬ふぜいが、よくも我らを撹乱してくれたなっ。

立ち上がって見ると、目を見開いたまま額を撃たれて床に転がる浩宇のむこうには、よく見知った女の顔があって。

――動くなファンロン。あんたがハオユーの部隊長ってのは調べがついてるんだ。しかしバイドアで『梟』……ボスの半身をサバイバルナイフで斬り裂いた鬼ってのが、まさかあんただったとは。灯台もと暗し、迂闊(うかつ)だった。

腹の奥がぎゅっとちぢまる。胸がばくばくして冷や汗が吹き出す。

自分の目が信じられなかった。――どうして、アメリが。
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 32に続く>>

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