【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 21
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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
これをこのブログ用に加筆修正している間に、元原稿の1.5倍くらいの量になってしまいました 汗
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うが、かつての兵役で負った神経毒の後遺症で錯乱状態に陥ってしまい――。』
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪ ようやく7幕を抜けた~!あ~~、長かったぁ。
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 7ー5(21)
「まちがってもいいじゃない。受け入れて生き直せばいいだけじゃない、何度だって」
「生き直す……?」
「ようは、絶対に諦めなければいいんでしょっ」
すると黄龍の肩からとうとう力が抜けた。
「まったく。おまえも大概、奇特な女だよな。光だけを見て生きていけるのに、俺のような奴も無視できないときてる」
瞳にうっすら涙が浮かぶ。
「けど……ありがとう。乗せられてつい、その気にさせられちまいそうだ」
「そう? よかった、じゃ今言ったの、信じて全部」
「全部って、おまえ」
天音は両手を腰にあてると笑って見せた。
「きっと、黄龍のお母様だってもう、今頃は許してくれてるわ」
そうだ。なぜって、愛する人が苦しむ姿なんて、誰だって見たくないのだから。
「……まるで俺のおふくろと今、話してきました、みたいな言い方するな」
横をむいたままで黄龍がぼそっと呟いた。
「そっかぁ」
「なんだよ」
「ごめんね。黄龍にとってこのエリュシオンは、つらい場所だったのね。それなのに、わざわざつれてきてくれて、本当にありがとう」
「天音、俺は……」
「もう十分よ。あのね、『いずこでも住めば都』って言葉が日本にはあってね。なんていうか……天国じゃなきゃ黄龍は救われないのかな」
「っ、おまえは、また何を突然思いついたんだ」
「だって。ようは、考えようなんじゃない?」
こんなに宇宙は広いんだもの、そのうち黄龍の欲しい場所だって絶対見つかるに決まってる、と天音は明るく言いきる。
「だからとりあえず今はもう帰りましょ、私たちのISSOMへ」
黄龍はなにか言いたげにしばらく天音を見つめてから、結局なにも口には出さず、ただ深い吐息をもらした。
「ああ……そうだな」
8
「それで? 休暇はどうだったのよ。同居人と二人で旅行に行ったなんて、ソラにしちゃずいぶん思い切ったじゃない」
エリュシオンの旅から戻って二ヶ月たった。カフェテリアの窓際席を陣取ったエレンは、大皿三つを前にかれこれもう一時間は食べ続けている。
「『楽園』に行ったんでしょ。どうだった? あたしがこの間行ったコビー・アイランドなんてさぁ、途中からなぜか空調がぶっ壊れて、激暑くて散々だったんだから、ホント最悪」
せっかくのリゾート衛星もあれじゃ形無しよねー、と話し続ける友を前に、天音は冷めてしまったコーヒーでのどを潤すとため息をついた。
「そんなに私、思い切ったのかなぁ」
「なにそれ。ファンロンと暮らし始めたころは、毎日泣きべそかいてたくせに。オリビエは優しかったー、ファンロン怖い、もう無理、部屋に帰れない、とか言ってさ」
――料理なんて分担制にすればいいだろ。それよりなんだ、この論文は。内容以前の問題だぞ、普通書くかっ、こんな書式で。もう一度はじめから、すべて書き直せ!
天音は笑って遠い目をした。
そう、最初の一ヶ月は何度、彼と住むのをやめようと思ったことか。
けれど今では黄龍以外の研修補助員(サポーターズ)なんて考えられない。
――南極域の成層圏オゾン数値を重点的に分析する? ああ、例の国際衛星からピンポイントで二酸化窒素誘導弾を打ちこむ案か。
シュバイツアー教授の発想はいつも独創的なのが魅力だが、まぁ現実問題、夢だな。あの概算額じゃ、費用負担はまずどこの国も手を上げないだろう。
黄龍の指摘は専門家でもないのにいつも的を得ていた。
――それよりHFC代替フロンの試作をもっと推進すべきだ。
温暖化対策との相関性は今どうなってる。中緯度地域の海面温度推移は?
というか海洋循環のデータも種類をもっと増やさないと、おまえの資料だけじゃまったく説得力がないぞ。雑な作業をするな。最初から一つ一つ丁寧にやれよ。
なんだか私、そのうち黄龍に専門でも負けちゃいそう、と紙を床に広げながらつい口を尖らせたら、傲然と腕組みされながら言い返されたりして。
――天音、おまえは馬鹿か。悪いが俺はこの問題に関しちゃ、おまえほどの熱意はない。単純に頭がいい悪いって話じゃないだろうが。人に諦めるなとか言っておいて、もっとプライドを持て。
ああ言われてやる気に火がつくなんて、私、いつのまにあの陰険口調に毒されたんだろう。
「ねー、その意味深なネックレスは何なのよぉ」
言われて天音は思わず鎖骨に手を当てた。
22に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-22
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