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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 9

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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになって――?』

あと、今日は娘のフラダンス発表会で、ばたばたなので、たぶんスターつけて下さった読者さまのところへお伺いするのは遅い時間になりそうで~す。スミマセン 汗

【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 5-1(9)

                    5

遅い朝食を食べながら泣いてしまったのは、断じて黄龍のせいではなかった。

「ごめんなさい……」

「謝るな。さっきのことなら、もういいと言っただろ」

けっしてふり返らない黄龍の背を追いかけて歩く。ゆとりのあるISSOMの制服を着ていてもわかる、よく鍛えた背中だった。

足どりが重いのは食材店でわんさか買い物をしたせいではない。そもそもフランスパン以外の荷物はほとんど黄龍が持ってくれている。

「それにしても最近あの店、米の入荷が少し遅くないか」

「え?」

「ISSOMの東洋食材は、たしか中国ルートで地球から調達してるんだったよな」

ベトナム食材はサザン・アステロイドまでは入ってきてるのに。一体どこで流通が滞ってるんだ、と青年は望んだ食料が手に入らなかったのがいかにも気にくわない様子でぶつぶつ言う。

「あの、サザンって黄龍がいつも食材お取り寄せに使ってる交易小惑星よね」

「ああ、そうだ」

「この間エレンから、サザンは国連の貨物倉庫みたいなところで、食料だけじゃなく、ありとあらゆるものが流通してるって。だけど関係者以外は入れないって聞いたんだけど。黄龍はどうしてそんな場所からお取り寄せできるの?」

「俺が、関係者だから」

 黄龍は肩越しにちらりとこちらを見やった。

「えっ、そうなの」

「ただしサザンの機密規程に抵触するから、これ以上は語れない。おまえ、俺の作る飯をこれからも食いたけりゃ、それ以上は聞くな」

「う、うん」

天音はしゅんと肩を落とした。なんだか今、黄龍の声が一瞬すごく怖かった。まだ本当は朝食時のことを怒ってるのかも。

(悪かったと思ってるのにな……)

 黄龍の作る朝ごはんはいつだって美味しい。シャワーを済ませ、席について箸を持ったら、どんぶりの中でゆげを揚げていた米麺は瞬く間にのどを通って消えた。そのあと器を持ち上げてこくこくスープを飲んでいたら、呆れたように怒られた。

――そんなにがっつくな。誰も取って食いやしないぞ。

けれどそう言いながら対面に座った黄龍は、言葉とは裏腹にけっこう上機嫌で。

――今日はこれから、予定ないんだろ? 食材の買い出し、つきあえよな。

うんと答えると、それにしても、と青年は短い黒髪を振って台所を見回す。

――どうでもいいが、ついにこの部屋にまで侵食されたか。

 視線の先には天音が数日前に園芸所(ナーサリー)から持ち帰ったばかりの観葉植物が置いてあって――なにを言いたいのかすぐに理解して、ごめんね、と頭を下げた。

実のところ天音は、ISSOMに上がって三月をすぎた頃から体調を崩し気味だった。

普段、衛星内に持ちこまれる植栽はすべて検閲を通っていて厳正な管理下にある。
特に花は種子を飛ばすので、原則は贈答用の切り花を除き禁止されている。
だから人工的な建造物を埋めるのは、ひたすら均一な緑だ。濃いも薄いもなく。

これが、思いのほか辛かったのだ。

――それは懐植物病(プランツホーリック)って言うんだ。いわゆる宇宙病、優しい性格の人に多い鬱みたいなものさ。

息がしづらくて、すぐ動悸が起きるし、寝付きも悪い。なにより頭痛がひどいと訴えると、かつてこの家で軽く脈をとって診断してくれたのは、今や通信もまばらにしか来なくなったオリビエだった。

――天音はたぶん、他より生命の気配を感じやすいんだと思うよ。ここに来てわかったろうけど、宇宙には音がない。この漆黒の闇空間で、命はまるで拒絶されているかのようだ。この衛星のすぐ外では死の気配が充満してる。

その緊張や恐怖を和らげるために、植物療法は有効なんだ、とオリビエは教えてくれた。

――あからさまな花は駄目だけど、花に似た葉を持つ観葉植物は、診断書があれば室内に置けるから。ちょっと居住空間を変えてみたらいい。たぶんそれで症状はだいぶ改善するはずだ。

言われてすぐ、医療園芸所(ナーサリー)に直行し……以来、ライム葉とシルバー葉のヘリクリサムに、ヘデラの鉢、多肉植物の寄せ植えーー黄龍がこの住居に入った時にはすでに、植物がけっこうな割合で部屋の一角を占拠してしまっていて。

現在も、増加中だったりする。

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10に続く>>

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