【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 6
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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音は研修補助員(サポーターズ)制度で同居するオリビエに淡い恋心を抱いていたが、オリビエは帰国することに。代わりに研修補助員になったのは三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士、黄龍(ファンロン)だった。』
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
【最初から読みたい方はこちら↓】
宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 3-2(6)
「まあ、その、なんだ。オリビエの後は俺が見てやるから、論文」
あまりに慌てていたせいか、気づけば戯言(ざれごと)を口走っていた。
「え。――ありがとう!」
とたんに日のさしたように天音の顔が輝く。ぞわりと背筋を衝撃が走る。
これか、オリビエが言っていたのは。
だが気づいた時はもう手遅れだった。
「言っておくが、専門外だからな」
「いいの。意見だけでもしてもらえたら助かるし、嬉しい」
今さっき嫌味を言ったばかりだというのに、天音は本当に無防備な笑顔を披露する。
(ICT開発王の孫娘、か……)
アドラ―財閥の創設者は米国、シリコンバレーの実業家で億万長者だ。
天音の母はその米国人と日本人のハーフにあたる。離縁した天音の祖母に祖父はいまだ執着しており、娘や孫の人生にまで干渉しているらしい。
――覚悟したほうがいい。
そう言って先ほどの酒場で、オリビエは酒を仰いだ。
――上司に念を押されたんだ。今度の研修生には後ろ盾がついているから、万が一にも粗相があると困るって。正直、研修補助員(サポーターズ)を受けるか迷ったよ。
けど、結局は指名(オファー)を受けたんだ、とオリビエは呟いた。
――まあ一時金も出るしさ。帰国すれば結婚するので、なにかと物入りだろ。
(しょせん、物を言うのは、金、金か……)
いや、本当にそうだろうか。オリビエはずっと人の命の重さをその手で量ってきたのだ。あいつは金だけの男じゃないはずだ。
――事務局が君を推薦してきたってことはつまり、君も合格点なんだろうな、ファンロン。
記憶がオリビエの台詞をなぞってゆく。
――僕は利己的な打算で天音についた。それがずっと心に引っかかって、後ろ暗かったんだよ。
(ああ、なるほど)
――だけどあの子、あんなふうになんでも熱心だし、今時ずれてるんじゃないかってくらい純真だろ。そばで見るうちに、なんていうか、情が湧いたっていうか。
(あいつ半分、本気になりかけてたんだ)
自分を慕ってくれる女と四六始終、顔をつきあわせていたのだ。
はるか遠く離れた祖国に婚約者がいたとしても、目の前の相手に気の迷いが生じないとは限らない。
「……黄龍?」
こちらを見上げてくる天音の視線には疑いのかけらも感じない。それが面はゆく眩しくて、腹が冷えていく。
「天音。日本茶を一杯、煎れてくれるか」
「はーい。ええと、黄龍は苦いのが好みだっけ」
――悪いけど、天音はファンロンに託したいんだ。僕の言う託すって意味、わかるよな。
手酌しながらそう切り出したオリビエの目には、なにか執着するような、葛藤を抱えた光があり、まったく笑っていなかった。
(この女とはまじめに向き合え、ってか)
だがそんなに心配せずとも、俺は天音に手を出すつもりはない。
(おまえは十分いいやつだよ、オリビエ……俺とちがって)
天音の経歴などオリビエに聞くまでもなく知っている。すべては調査済みだった。
(そうだ。結局のところ天音は選ばれた人間で、俺とは住む世界がちがう)
即座に断じてしまう自分がわずかに哀れで、力をこめて拳を握りしめる。
大丈夫だ。心は平静を保っている。
揺らぐわけにはいかない。他に気をとられる余裕などない。なぜなら。
――任務は始まったばかりだからだ。
7に続く>>
【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 7 - Home, happy home
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