Home, happy home

Home, happy home

楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』2【短編小説】

【スポンサーリンク】

みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『エイリアンな彼女』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は2回目。

『齋藤菜々緒、17歳。高校2年。好きなモノ嫌いなモノ、特になし。ただし人に言えない苦手が、じつはたくさんある――。』

帰国子女が日本に戻ってきてから感じる違和感や逡巡を、ゆきうさぎ自身の体験を踏まえて小説にしてみました。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

 

【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

エイリアンな彼女 2

 f:id:yukiusagi-home:20191007135339j:plain

以前居た場所ではしっかり自分の意見を持てと言われ続けて育ったのに、東京に帰ってきたとたん、他人とちがう服装はだめ、他人とちがう意見もだめ、学校で決められたモノ以外の持ちこみなど論外だと言われ――。

 こちらルールを逸脱した時の、周囲の視線がたまらなく嫌だ。

自分のほうが正しいと信じている時の人の顔って、なんであんなに傲慢なんだろう。

 そんなことを考えながら、校門を通りすぎた時、関屋先生と目があった。

――不吉な予感。

いつも空気みたいに無視されるのに、今一瞬、モノ言いたげな目が自分の前で止まった気がする。

 短かく頭を下げてやり過ごし、由真と別れて教室に入ると、亜里砂の一派と風花の一派が子犬のように言い争っていた。

なにあれ、と葵に囁くと、どうやら髪留めの色形が風紀違反だというのが騒ぎの発端らしい。

「え。ゴムは、黒か茶色のみ可ってやつ?」

「いや、バレッタ。べっ甲色はいいか悪いか、クラス毎に多数決取って先生に陳情するんだって、先週、二人で結託してたんだけどさ。部活の先輩から待ったが入ったらしくて――」

「はあ」

「剣道部の内田さん。そこまですることはないんじゃないかー、って言われたらしくて」

「……まあ、そうだね」

「それで止めようって風花が言ったら、亜里砂が裏切ったとかなんとか言って、切れてさ」

 内田さんってほら、宝塚みたいな先輩だから、菜々緒も知ってるでしょ、と葵が言う。

「知らない」

「ええーっ、有名人なのに。青山歩いてたらモデルスカウト来たって噂の……」

「そんな人いたんだ、三年に」

「つーか内田家って元華族だし、叔父さんは政治家じゃん。まあいいや、とにかくそういうのもややこしーく絡んで、さっきまで髪つかみ合うような騒ぎに発展してさ……」

 なんじゃそりゃ。どうでもいい。

  まわりで止めたりちゃちゃを入れたりして騒然と輪になっている女子達を眺めながら、菜々緒はどっと疲れた気持ちで机に突っ伏した。

――いや正直、髪留めやら先輩愛くらいであの熱量には脱帽するけど、けっして亜里砂たちが悪いってわけでもないんだ。

どう考えてもこの学校の閉塞感のほうがおかしい。

なまじ似たような背格好の、おおむねストレートな黒髪に黒い目の人間がちょうど都合良く集まっているから……統制したり管理しようと思えばできちゃうのかもしれないけれど。

 でも、それって、なんのために?

 学校はすぐ美辞麗句を並べ立てるけれど、建前で取り繕ってる嘘なんて、こっちからは見え見えで気持ち悪い。

ただ単に生徒を信じるのが怖くて、個性の尊重なんて本当は面倒臭いと思っていて……ぶっちゃけ楽して給料稼ぎたい、くらいなことは思ってませんか。

 大人の事情が少しでも垣間見えてしまうと、とてもじゃないけれど、そこに力を入れようなんて思えなくなる。馬鹿馬鹿しくて。

 そもそも髪の色目の色肌の色のちがう人種が大勢いる国では、こんな些末(さまつ)なことまで規則に当てはめて管理できないしな、と菜々緒は思う。

――くだらない。今、もっと他に考えたりやらなきゃいけないことが沢山あるはずなのに。

 みぞおちのあたりが熱くなってギリギリし、頭痛がしてくる。

最近よくこうなる。身体が重くてだるい。泥水の中を泳いでいるような無力感。

――どうして私、こんな小さな井戸の底で、もがいているんだろう。

f:id:yukiusagi-home:20191007152333j:plain

   異世界人(エイリアン)は不便だ。

どれくらい不便かというと、たとえばスーパーに入ろうとするたび異臭に立ちすくんでしまったりする。

原因は死んだ魚の匂い。

魚を食べ慣れている日本人(このくにびと)には想像できないだろう激烈な生臭さ――これを素知らぬ顔でやりすごさなきゃならないなんて、ほぼほぼ苦行だ、大きな声じゃ言えないけれど。

 ことほどさように、食べ物や飲み物の感性が友達とずれているというのは、菜々緒にとって半端ないストレスだった。

ソーセージやハムはとかく色が毒々しいし、肉から薬の味がする。

水がカルキ臭い、飲み物全般が甘すぎる。

袋菓子の油が粘って口の中に張りつくのも妙だし、パンは白すぎてふわふわ中身がなく、食べ物というより綿飴みたいに思える、等々。

 日本にも美味しいモノはもちろんある。

が、まずいモノを率直にまずいと言えないのが辛かった。

仲の良い友達がそれを美味しいと思って分けてくれたりする場合はなおさら――。

  たまにはみっしり堅くて酸っぱい黒パンに、ちゃんとまともな味のハムとチーズを挟んで食べたいなーとぼんやり思いながら廊下を歩いていると、担任の真壁先生が教室から出てくるのにはち合わせた。

「齋藤さん、どちらへいらしてたんですか、ずいぶん探しましたよ」

 妙に切迫した表情だった。

その3に続く>>

帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』3【短編小説】 - Home, happy home