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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』3【短編小説】

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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『エイリアンな彼女』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は3回目。

『齋藤菜々緒、17歳。高校2年。好きなモノ嫌いなモノ、特になし。ただし人に言えない苦手が、じつはたくさんある――。』

帰国子女が日本に戻ってきてから感じる違和感や逡巡を、ゆきうさぎ自身の体験を踏まえて小説にしてみました。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

 

【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

エイリアンな彼女 3

どうしたんだろう、昼休みはまだ二十分はあるのに。

「あ、お弁当終わったんで、トイレに……」 

とにかく急いで図書館の別室へ行けと先生が言うので、わけもわからず広い校舎を突っ走り、校庭を横切って短大と共用の建物へ急いだ。
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階段を駆け下り、なじみの図書館長に一礼して別室のドアを開けると、

「……よお、久しぶり」

 そこに、思いもかけない顔がいた。

高木翔。フランクフルトで同じインタースクールの中等部だった同級生の男子。

たしかそのまま高等部に進んだはずなのに。

「どうしたの?! え、――帰国したの??」

 やっぱり本物だ。菜々緒は息をつめた。

「いや、一時帰国。やー、会えてよかった。東京よくわかんねー、ごちゃごちゃしてて。携帯つながらねーしさ。大変だったんだぞ俺、菜々緒のガッコ名しか聞いてなかっただろ」

 それで学校まで直接訪ねて来て、窓口で齋藤菜々緒の連絡先を教えるか、今すぐ呼び出してくれと粘ったらしい。

「なんかこのガッコ、煉瓦塀高いし、校門とこの警備のおっさんも、めっちゃ厳しいのな」

「あのね翔……ここインターじゃないから。しかも相当、伝統とか格式とかうるさいほうの女子校なの、そこんとこわかってる?」

「あー、だからか。先生の日本語が異常に丁寧。俺ああいう敬語、聞いたことねーかも」

「そういう話し方するの、先生相手の時だけ。みんな友達同士は普通にしゃべってるよ」

「へー。変わってるな。でも菜々緒、そのセーラー服はすげえ似合ってるよ。その髪、三つ編みとか、昔風で。俺一瞬、誰かと思った」

 そういって翔はにっと笑った。

黒のニットセーターにシーンズというラフな格好をしたその耳には、金のピアスが光っている。

 わかってる、翔に悪気はない。

この人はアメリカ生まれのドイツ育ちで、日本を知らない。

そしてインターはいつ誰が訪ねてこようが自由だ。

でも……真壁先生が堅い表情だったわけがわかった気がして、海より深いため息が出てしまった。

「……で? なにしにきたの」

「や、日本のガッコってどんなかなーと。もっと狭いと思ったけど、けっこう広いな」

「いや、ここが特に広いだけ。私立だし、女子大と併設だし、中等科もあるし」

「へえ。菜々緒もその女子大に行くのか?」

「ううん、たぶん二駅くらい離れた、系列の共学四大に行くと思う。内部進学制度で。それにここさ、高校で第一外国語、ドイツ語が専攻できるんだ。都内でも珍しいんだよ」

 そう言うと翔は妙に納得した顔をした。

「ふうん……だからこの高校、受けたんだ」

 一歩こちらに近づく。

「一緒にインター行かねえで、こっち帰って」

 てっきりあのままドイツに残ると思ってたのに、とどこか寂しげに言う。

「だって……うちの親、高校生で一人暮らしなんて許さないもん。しかたないじゃない。翔だっていずれはこっちに帰ってくるでしょ」

「いや。――俺は帰国、しないかな」

「え? 嘘っ」

 目を見開くと、手が触れるくらいまで近づいてきた翔は、思わせぶりにふっと笑った。

「前に言ったろ、俺、生まれはニューヨーク。だからアメリカ国籍も持ってる。……このまま高校はドイツで、大学はアメリカにしようかどうか、今まさに迷ってて」

  で、とりあえず日本(こっち)も視察にきたわけだ、とまっすぐな瞳が菜々緒を捕らえた。

「でもなんか俺、正直この国あんまり合わねえかも。人ちっせえし、せかせか細々してるし、物価高いし。――おまえはどうなんだよ」

「え?」

「帰国してここ入って、良かったと思うか?」 

それは久々の、本当に久しぶりの、てらいない単刀直入な質問で――すぐに答えられないでいる自分に、菜々緒は少なからず驚いた。

「……うん、まあ良かったかな。うちの親は日本に戻らなきゃいけない時期だったし、ここの大学の就職率、高いし」

 本当は馴染んだのは外見だけで、まだ右往左往してるけど。とはなぜか言い出せない。

そして翔もなにか言いたげに押し黙っている。

――ていうか、貴重な一時帰国の最終日に、どうして私を訪ねてきたりしたんだろう。

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その4に続く>>

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