帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』5【短編小説】
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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『エイリアンな彼女』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は5回目。
『齋藤菜々緒、17歳。高校2年。好きなモノ嫌いなモノ、特になし。ただし人に言えない苦手が、じつはたくさんある――。』
帰国子女が日本に戻ってきてから感じる違和感や逡巡を、ゆきうさぎ自身の体験を踏まえて小説にしてみました。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。
【最初から読みたい方はこちら↓】
エイリアンな彼女 5
菜々緒が頬をかくと、
「な、なんで、そんなことを……」
めずらしく葵がうろたえる。
「『じつは、この髪が茶色なのは母ゆずりなんです。母方の八分の一がロシア人だからかもしれないんですけど……黒くないから、染めようかってひそかに思ってて』って」
そう言うと、二人は顔を見合わせた。
「『でも校則では髪を染めちゃいけない。つまり黒く染めるのもいけないんですよね。それに染めると髪が傷むらしいですし。先生はどう思われます? やっぱり黒いほうがよろしいでしょうか』……って」
「えっ、えっ、何どういうこと、菜々緒の大大おばあちゃまって、ロシア人なの??」
由真がこらえきれなくなったように言った。
「ううん、ちがうけど」
「はあ?! え、なに、どういう意味――」
頓狂な声を上げる由真の横で、葵はもう腹を折って笑い死んでいる。
「えらいっ、よく一発かました、菜々緒!」
「なに、嘘なの?! やだっ、どういうこと?!」
「いや、嘘って言うか……そうかもしれない人が祖先にいたらしいんだけど、さだかじゃないんだよね。ただ私、目も茶色いし。ドイツいた時も、菜々緒はブラウン目にブラウン髪って言われてて。ブラックじゃないって」
菜々緒が答えると、涙を拭いて葵がようやく口を開いた。
「で、関屋先生はなんとおっしゃった?」
「『黒く染める必要はございません』って」
「ひゃー受けるー、菜々緒ってホント冷静ー」
「まあこれでしばらく、呼び出しはないかな」
正直、翔のこと持ち出されたら、こんなふうに返せなかった気がする。髪で良かった、と漏らすと、葵は急に真顔になった。
「そのイケメンって、菜々緒の彼氏だったの」
「べつに翔はイケメンじゃないよ。鍛えてるし、身長体重はむこう並みだけど」
「イケメン云々はどうでもいいって。で?」
「彼氏……うーん、彼氏ってよりは同志かな」
翔には遠慮無くなんでも話せた。
同じ人種で同じ歳で、感性も似ていて。
だからすごく大切な人だった。
でもお互いの生きたいと思う国がちがってたら、たとえどんなに心が近くたって……別離しか選択肢はないわけで。
「――本当に、どこでもドアが欲しい」
たまらなくなって呟くと、葵が言った。
「……菜々緒は、大学、私らと一緒だよね」
「その彼にほだされて、今更アメリカ行ったりしないよね。私やだよ、さみしいもん」
由真も心配そうにこちらを見上げる。
「内部進学の説明会、来週月曜だよ?」
「うん、ありがとう由真……わかってる」
そう。来年の春はいよいよ大学。
受験組をのぞいたクラスメイトはほぼ系列の四大進学を希望していて、内申と内部試験が基準点を満たしていれば、希望の学部へ行くことができる。
なのに――どこかで選択を後悔している半身がいた。泥沼の底で魔女みたいにわめきちらし、これ以上こんなくだらない処にいられない、限界だ、向こう側へ帰りたい、翔の隣が良かったと駄々をこねてる。
今更なにを、と心の中で何度も自分に言い聞かせた。
いい?
私の国はここなんだから。
どんなにあちらが懐かしくたって、還りたくたって、もう諦めて息を押しこめて、ここで生きていくしか術(すべ)はないんだ。
月曜日、大学説明会当日は雪が降りそうな曇天だった。
高等科から大学までは歩いて三十分くらいだ。
あいかわらず頭痛と身体のこわばりは続いていて、よほど家に帰ろうかとも思ったけれど、そんな軟弱なことじゃ大学の先生方に失礼だから、やっぱり葵と由真と、三人で連れ立って行くことにした。
葵は政治学部。由真は数学部。そして菜々緒は文学部のドイツ語圏文学科へ――。
本当のところ、身体の半分を切り捨てるように日本に馴染もうとしている今、独文科を見学するのはいかにも未練たらしい気がしたけれど、大学では第二の故郷がどういう扱いを受けているのか、どうしても好奇心に勝てなかった。
しかも内進担当は教育テレビでもよく拝見するあの大月(おおつき)冴子(さえこ)教授だというし。
そして菜々緒が聴講したのはほんの一時間半だったけれど、雰囲気を知るには十分だった。
レポートの発表から始まり、容赦ない討論、討論。
――大学では、日本(このくに)でも自由に意見を言っていいんだ。
目の覚める思いで授業後に大月教授の研究室を訪ねたら、まあ座りなさい、と肘掛け椅子に案内された。
「……どうだった、講義は? 理解できた?」
「あ、はい」
「率直に聞いていいよ。なんでも答えるから」
ざっくばらんで自信のある話し方。まるでドイツ語を日本語にしたような。
――この教授になら、翔と同じように話せるかもしれない。
いつも先生と名の付く人には細心の注意を払って言葉を選ぶのに、気づけばするすると感想や質問が口をついていた。と、
「あー、もしかして菜々緒さん、帰国でしょ」
話し方と目線でわかるんだよね、と大月教授はどこかひどく上機嫌だった。
その6に続く>>
帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』6【短編小説】終 - Home, happy home
【追記】
ゆきうさぎの住む湘南は、台風19号の直撃地域なので、万が一停電した場合に備え、明日の原稿も、予約投稿しとくつもりです。
最終回なので、間が空かないよう努力します~。
なお余談ですが19号は「Hagibis(ハギビス)」ってフィリピン語の名前がついてたんですね。NHKワールドの情報で知りました。