帰国子女も楽じゃない『エイリアンな彼女』4【短編小説】
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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『エイリアンな彼女』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は4回目。
『齋藤菜々緒、17歳。高校2年。好きなモノ嫌いなモノ、特になし。ただし人に言えない苦手が、じつはたくさんある――。』
帰国子女が日本に戻ってきてから感じる違和感や逡巡を、ゆきうさぎ自身の体験を踏まえて小説にしてみました。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。
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エイリアンな彼女 4
その時、予鈴が鳴った。
「あ……行かなきゃ。授業始まる、ごめん」
「そうか、じゃ」
まあ元気そうで安心した、とだけ言って、翔は菜々緒を自然に抱き寄せると、名残惜しそうに両頬にキスした。
「次はもう、いつ会えるかわかんねえけど。お互いに、がんばろうな――」
それは約二年ぶりのハグで、昔と変わらぬ馴染みの男物の香水の匂いがしたけれど……いつのまにか一段と背も高くなり、身体つきもひどく男っぽくなった翔は、どこか別人みたいに遠かった。
ああ、ここでサヨナラなんだ、もうたぶん翔にはこの先会えない、と瞬間、強く悟ってしまう。
――だってこの人は私に今日、お別れしにきたんだから。
「ほら、菜々緒は」
抱き合ったまま、翔がキスを要求してくる。
そう、目は口ほどに物を言い、ハグはそれ以上に心を伝える。
だから今は親愛と友情と、これまでの感謝を。精一杯の誠意で。
「うん。遠いとこ、わざわざ会いに来てくれて……ありがとうね」
翔の頬にキスし、思い切って身体を外すと、
「おう。また、いつかどこかで」
返ってくる声は力強くて暖かかった。
菜々緒は翔を校門まで見送り、駆け足で教室に戻る。――切ないなぁ。
異世界人(エイリアン)にはこういう別離が時折ある。
翔の件は真壁先生にきちんと報告したし、色々と質問されたけれど、翔があの足でドイツに帰ったという事実が決め手となったらしく、それ以上追求されなかった。
だからもう済んだものだと思っていたけど、噂好きな女子にはもってこいのネタだったようだ。
一週間くらいたった登校途中、菜々緒が葵と由真に事実を打ち明けると、
「うわー、まさかの展開。あの謎の破廉恥在校生が、この地味真面目な菜々緒だったとは」
葵はさっそく絶句した。
破廉恥って。
さすが伝統校、言葉使いが特殊、と驚いていると、
「いやもう内田さんって話になってたけど?」
と由真も即座に言った。
「内田さん……ええと宝塚な先輩」
「そう。お家の継承問題でお輿入れ先をどうするって話のすえ、お見合い先のさる財界のお坊ちゃまが、内田さんにぜひお目通りをー、と学校に押しかけたっていう粗筋(あらすじ)になってた」
恬(てん)と返され、今度は葵と二人で絶句した。
「……えええ、それは」
なんだか内田さんに申し訳ない。
「あっ、やば、関屋先生立ってる、お先っ」
「まーた走るんだ、葵ー。いい加減にしたら」
「いやだよ、由真。私は納得できない規則には断固抵抗、従わない主義なの。だから三年間、このコートで押し通るつもりっ」
葵が騒々しく駆けだして行き、視線を上げると、門の前に仁王立ちしている白髪眼鏡とまた目が合った。
――ああ、来る。
思う間もなく、ちょっと、そこの梶谷葵さんのお友達、と声がかかる。やっぱり。
「ええ、あなたです。由真さんじゃありません、隣の背の高いあなた。お名前は?」
この先生、私の名前は覚えてないんだ。
たしかに由真は品行方正、校則違反皆無がモットーだけれど。
もう二年も学校に通っているのに名前も知らない相手に、この居丈高な物言いってどうなの。
胸を苦い焦燥感が突き、ついでふつり、静かな怒りがこみあげてくる。
相手の目を見ればすぐにわかる。これは異世(ことよ)を、なにも知らない目だ。
あちらに行けば、この人は赤子のように言葉を持たず、大汗をかいたり青ざめたりしながら右往左往するだけで、一日まともに生き抜く術すら持たないんだろう。
菜々緒が蝶のように自由に飛び回れる、あの広い世界で。
「齋藤です」
「齋藤さん。放課後少しお話しがございます、生徒指導室へいらして下さいね」
私、どうしてこんな相手から、聖母が迷い子を導くような目をされているんだろう。
きっとこの人は知らないのに。自分の信じる正義が外では通用しないことも、この世界に正義は一つだけじゃないことも。
「……かしこまりました」
無知なのはどっちだ。
むかついている顔を見られないように、深く深く頭を下げた。最敬礼だ。
隣で由真が言わんこっちゃないと言った体(てい)でおたおたしている。
大丈夫だよ由真。心配させてごめん。
別に悪いことはなにもしてないし、むやみに服従する気は無い。押しつぶされるつもりも無い。
肌がぴりっとしびれ、腹の奥に熾火がともる。ついで、すうっと頭が冴えていく。
私は名無しの通行人?――否。見くびらないでほしい、それだけだ。
その日の放課後、かび臭い一階離れの生徒指導室で、関屋先生は太った身体を菜々緒にむけて、自分だけ座ったまま言い放った。
……いえね、あなたのその髪が、以前から気になっておりまして。
ええ髪型はいいのですけれども、色が。
少し茶がすぎるようにお見受けしますの。
まさかとは思いますが、染めていらっしゃるんじゃありませんか――?
初めての呼び出しから、ようよう解放されて外に出ると、廊下の端で葵と由真が心配そうに待っていてくれた。
帰り道、坂を下りながら菜々緒があらましを説明すると、
「――えっ、例の男子の話じゃなかったの、髪?! だって菜々緒よか茶髪なんて一杯いるよね?! なんでそんなこと言ったんだろう」
由真は信じられないという顔をした。
「馬鹿だねー、由真は。その男子の一件が気にくわなかったからに決まってんじゃん」
で、なんて答えたの、と葵に話を振られて、
「いや……『染めてませんけど、染めようか、正直、悩んではいました』って答えたんだ」
「はあ?!」
その5に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/alien-5
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