【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 27
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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。
着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
物語は佳境にさしかかっております。そして原稿も増え続けています……汗 つまるところ、推敲の量が半端ないっす……ちーん。
なぜ原稿が増えているのか。今週はひとえに黄龍のせいです。この人、天音と一緒に居ないとき何してたんだろうと、軽い気持ちで書いてみたら、どんどん展開がハードになっていくではないですか。そして動きが速くてついていくのが大変、ひー、待って~~。
そんなこんなで、裏でバタバタしてますが、どうぞよろしくお付き合い下さい。。
『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。
天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、天音の気持ちとは裏腹に不穏な計画が進行していくのだった――。』
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 10ー2(27)
水商売に違法薬物。
およそこのクリーンな衛星にふさわしくない連中が、どこで噂を聞きつけたか、例の祭りの前に荒稼ぎに来ている。
「一番ヤバいのは人身売買組織だ。一見ただの立ち飲みバーだが、美男を看板にして若い女を釣るんだ。言葉巧みに狙った獲物に睡眠薬入りのカクテルを飲ませ、泥酔したら連れ去る。おそらく『梟(フクロウ)』が入れたんだろうが――」
こっちだ、と浩宇はコンテナ角を曲がる。
「サザンで聞いた話じゃ、奴らはさらった人間に焼きごてまで入れるらしい。まるで昔の奴隷貿易だよ。さっきの声が、俺たちの知り合いじゃなきゃいいが……」
だがコンテナの中程に力なくうずくまり、浅い息をしていたのは、はからずもよく見知った顔の女だった。
苦い思いがこみあげてくる。
「おい、大丈夫か」
腹部を数カ所刺されている。
他にも何カ所か切り傷がある。
近寄ろうとすると浩宇が前に出、血だまりにひざまづいた。
「しっかりしろ、エレン!」
ぐったりしている女の背に手を入れて名を呼びかける。
なんだ浩宇め、いつのまにと一瞬思ったが、まあこの天音の友達は新顔と交流するのにも抵抗がないから、話しているうち意気投合したんだろう。
「なに……ハオユーもいるの? 痛っっ」
俺は思わず顔をしかめた。
右脇腹からの深傷が大きく見えるが、手首を切られている、これが一番まずい。
一見してわかる。これはもう――助からない。
「助けて」
それなのにエレンは必死な顔でそう言い、ぜいぜい息を切らした。
「さ、さっき一瞬、横顔が見えたから……ファンロン、やっぱりあんただった……」
「わかった。それ以上、しゃべるな」
俺はエレンの顔を見つめながら、背後に神経を集中した。
浩宇も気づいたようだ。
いる。
この女を刺した奴らがまだ、こちらを伺っている。
おそらく敵か味方か判断しかね、足が止まっている。
この数瞬が勝負だ――と察するより先に身体が反応した。
コンテナに沿って走り出すや、慌てた足音が追ってくる。一。二。三。四。
最初に襲いかかってきたのはケイバー型ナイフを振りかざした白人の色男だった。
バックパックを投げつけて体勢を崩したところを足払いし、仰向けに引き倒す。肘をひねってナイフを奪うと、反撃する間を与えず容赦なく心臓に柄を突きこんだ。男はうめき、胸を押さえてもがいたが、やがて痙攣して動かなくなる。
二人目は背後から襲ってきた。
これは上背のあるヒスパニック系で、とにかくごつい。飛びすさってやり過ごし、力任せに殴りかかってくるのをかわしてよける。
隙をつき、露出している右腕部を狙って、手首から肩までナイフで一閃した。
「うああ、畜生! やりやがったな!!」
腕を朱に染めながら、わめき散らしている男の懐に飛びこむと、そのまま顎を狙ってナイフの柄ごと拳を叩きこむ。
顎の骨がくだける感触があって、男は地面をのたうちまわった。
どうやらこいつらは兵士じゃなさそうだ。ただのゴロツキの下っ端ってところか。
「気をつけろっ、二人とも玄人だ」
一番奥の男が短く叫ぶ間にも、正確に状況を読んだ。
敵はあと二人。まだ間合いが狭い。
しかしそれは銃を所持していないか、持っていても事情があって撃てないことを意味する。
そうか。例の決行は明日だ。今ここで銃撃戦が起き、注目が集まるのを避けたいのなら、これは『梟』傘下の輩と見てまちがいないだろう。
その時、暗闇をきらりと光が走り、三番目のドレッドヘアがつぶれた声をあげて、ばたりと倒れた。
見れば浩宇の投げたバタフライナイフが喉を貫通していた。
倒れた男は盛大に首から血を吹き上げている。
「むやみに殺すな、浩宇!」
「へいへい、すんません」
浩宇は不服そうな声を出す。これであと一人。まだ聞きたいことがあった。
最後の一人――訛りからして南アフリカ出身の白人は、少々厄介だった。
仲間が全員倒れたとみるや、脱兎のごとく踵を返して逃げだしたからだ。
そのふくらはぎにナイフを投げつけ、追いついた背を蹴り飛ばし、中腰で崩れかかるところを後ろから羽交い締めにした。
抵抗したので左腕を掴み、関節と逆側にへし折ってやると、相手は潰れた蛙のような奇声をあげる。
「言え。これは誰の指図だ」
膝立ちした相手の首に腕を入れて絞め上げた。命乞いする男の口から出たのははたして知った名だった。やっぱりか。予想はしていたものの、すっとみぞおちが冷えた。
「今、聞こえなかった、そいつはなんて? エレンを刺したのは人身売買の奴らなのか、黄龍」
確認するように、浩宇が聞いてきた。
「……ああ」
短く答えしな、男のこめかみを狙って拳で強打した。男は口から泡を吹いて気絶した。
なんだ。バイドアで対戦した輩と比べたら、まったく弱いとしかいいようがない。
――こんな奴らにエレンはやられたのか。
いまさらのように、天音が心配になってくる。とにかく明日、無事を確認しに帰ろう。
心の中で段取りを確認しながら浩宇のところへ戻ると、
「ねえ、さっきから血が……全然、止まらないんだけど、どうしよう、死ぬ? 死ぬかも、あたし」
エレンが悄然(しょうぜん)とこちらを見た。
28に続く>>
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