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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

夏だ!冒険だ!てことで【短編小説】『雲龍夢譚』2・(冒険ファンタジー)

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はじめましての方、こんにちは。ゆきうさぎと申します。ここのところ完全自作短編小説を記事にしておりまーす。今日はその2。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

【最初から読みたい方はこちら↓】

yukiusagi-home.hatenablog.com

 

 

「……」

「あ俺、加那汰(かなた)! 十歳! 麓(ふもと)のユカリ村出身! 兄ちゃんは二十歳くらい? 名前は?」

 凪(なぎ)は面倒くさそうに頬をかいた。

「んなこと聞いてどうするんだ」

「え、だって命の恩人じゃん! で名前は?」

「……凪」

「そっか凪か! で凪はこれからどうすんの? 峠を越すなら明日のほうがいいよ、もうすぐ日が暮れるから。今夜泊まるあては?」

  言われて空を見上げれば、先ほどまで吹いていなかった夕風がひやりと背を撫でていく。

「この蓬山の夜はさー、最近じゃ昼とは比べものにならないほど物騒なんだぜっ」

 加那汰は得意げに長身な凪を見あげた。

「霊山が聞いてあきれるだろ? 今じゃここは逢魔(おうま)が山さ。岩塩を採掘してた北の坑道から、さっきみたいな妖魔がうじゃうじゃ這い出てくるようになっちまったせいでさ」

「……それは強欲な塩商人が、地下深くから塩を採りすぎたせいだろ」

「そおっご名答! だから今じゃ腕に覚えのある物好き以外、誰もこの山に近づかないんだー」

早口でまくしたてる。

「だからさ? 宿所(やどや)、泊まってかない? 俺そこで働いてんだよ。なー、すぐそこだし、いいだろ?」

「悪りぃ」

凪は首に手をあてた。

「あいにく俺、今あんまり持ち合わせがねえんだよな」

「えーそんな。金のことなら全然、気にしないでいいって!」

「……そういうわけにも、いかないだろ」

「んーじゃ、これでどお?」

 加那汰は左指を四本立ててみせた。
さてはこいつ、やっぱ客引き小僧か。
凪がため息をついてうなずくと、瞳をぱっと輝かせる。

「よっしゃっ、じゃ俺の後についてきてっ」

猟犬のごとく走り出した。

「ほら、こっちこっち! 早く早く!」

「わかったから、そう急かすなって」

 加那汰のあとを追うように歩き出しながら、凪はちらりともう一度、峰を見やった。

 天にも届こうかという、その急峻ないただきを。

(紫水……)

 蓬山――北大陸の中部、青峰(せいほう)山脈にあり、古来より優良な岩塩の生産で発展してきた地。

 山の海。ここは天にもっとも近い海なのだ。

(あんた、どうしようもない阿呆だな……っ)

 兄がここに居着いてしまった理由(わけ)がわかった気がして、凪は奥歯をきり、と噛みしめた。


 凪の連れて行かれた先は、崖のような岩斜面に開いた窟(いわや)を利用して造られた広間だった。

 加那汰は洞窟の中央にある、一番大きな部屋の囲炉裏で火を忙しくかき起こしながら、凪に手で座れと合図した。

「飯(メシ)! 今、用意するから、そこで待って!」

「……おまえ、ほんっとおしゃべりだな」

「あーそれよく言われる! 凪は顔めっちゃ無愛想だけど、じつはけっこう鋭い人?」

 おいコラ。命の恩人に無愛想って。

「この洞窟はさぁ、蓬山(ほうざん)の龍を退治しにきた、っていう人たちの宿なんだぜー。龍の鱗っていうのは莫大な霊力の塊で、持ってりゃ運も力もつき放題! 万病も癒やすってなっ」

「へーえ。そりゃすげえな。誰に聞いた?」

「お客さんに決まってるだろっ」

 不思議な空間だな、と凪は周囲を見渡して思う。入り口は人一人入れるか程度の狭さで、おまけに入りくんでいる。

 なのに――窟(いわや)の奥に行くにしたがって、だんだんと通路が開け、だだっ広い空間になった。

他にもいくつか穴があり、天井には換気穴、側面壁には採光穴まで開いている。

「あ、ちょびっとだけ磯の香りがするだろ。主(あるじ)が言うには、昔はここ、岩塩の採掘場を警備してた兵の詰め所だったんだー」

 加那汰は自在鉤(じざいかぎ)に吊された鉄鍋の蓋(ふた)を取ると、慣れた手つきで中身を汁椀によそった。

「できたっ。猪肉に芋と豆の煮込み。身体あったまるから、遠慮無く食って」

にかっと笑い、椀を凪に渡す。

「つーか、もし『闇切(やみぎり)』を持った旅人がここに来たら、大盤振る舞いしろって主に言われてるしー、俺」

 主? 匙(さじ)を受け取りながら凪は首をかしげた。

ああ、加那汰の雇い主か。
しかしこの洞窟、こいつ以外、人気(ひとけ)がないようだが。

「ここ、今はおまえ一人なのか?」

「うん、そう。うちの主は十日前、山むこうの街まで買い出しに行っちゃったから」

 いつものことさ、と加那汰は肩をすくめた。

前は行商人がこっちがわまで来てくれたんだけど。今じゃこの山、そうとう危険だから。

(つまりこの山で退治屋は歓迎されてる、と)

 凪は薄く加那汰を注視した。

 『闇切(やみぎり)』。

それは妖魔を屠るのにもっとも適した鋼(はがね)だった。
刃それぞれに個性があり、使い手はたんに武術に秀でているだけでなく、武具との相性も重要になる。

 だが闇切は稀少な刀だ。使い手は少ない。

その3に続く>>

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