夏だ!冒険だ!てことで【短編小説】『雲龍夢譚』5・(冒険ファンタジー)
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はじめましての方、こんにちは。ゆきうさぎと申します。ここのところ完全自作短編小説を記事にしておりまーす。今日はその5。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。
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(あんた、以前俺に、言ったよな……)
広い世界を見て知って、自分を試したい。そう考えたら、ただ無性にワクワクするって。
凪、悪いが俺は先に行くぞ、そう宣言した時のあんたは、ほれぼれするくらい格好良かった。
だから俺はずっと阿呆みたいにあんたの背中を追いかけて、追いかけ続けて、いつか隣に笑って並び立つのが夢だったのに――。
深い亀裂の底でなにか強い気配が凪を呼んでいる。その正体は容易に察しがついた。
「……っざっけんな、畜生!」
身をひるがえし、ざざざ、巣の中央にある亀裂に滑りこむと、はたして壁一面に突き刺さっているのは――煌めく龍の鱗の破片。
そして、一番底に落ちていたのはまぎれもない兄の闇切(やみぎり)、三つ叉の長戟(ちようげき)だった。
凪はその戟刀の付け根に埋めこまれた紫の卵石を睨みすえ、震える指をかけると、口を引き結んで一気にむしり取った。
――よお、凪。来たか。
とたん、なじみの霊動が凪の頬をくすぐる。思わず両目を閉じた。
――よかった。待ちかねたぞ。おまえならきっと、ここまでたどりつけると信じてた。
紫水の思念はようやく安堵したと言わんばかり、凪はぐうっと腹に力をこめ、わきあがるいらだちを封じこめる。
――なあ凪よ。悪いが俺は、どうやらここが終着点だったようだ。だがおまえはこれから俺を超える。
超えていけよ、凪。
その石をやる。俺の夢は、おまえに託すから…………
「だから。なんなんだそれ?!」
凪は拳を握りしめる。
夢だ?! そんなもん自分で叶えろよ、このクソ兄貴!
「あんただけなら、余裕で助かったろ?! 強えのに――なんでこんなことになってんだっ」
――すまん。悪いが一つだけ頼まれてくれ。あの子は……どこかおまえに、似てるから。
「どんだけ底抜けのお人好しだよ。馬鹿野郎ぉっ、あんたなんかもう、勝手に死んでろ!」
毒づいて卵石をふところに入れた。
そうだ。あんたはいつでも信じてた、自分の行く先を。そんなあんたの世界はいつだって、俺には輝いて見えたんだ。
残っていた兄の霊気が急速に薄らいでいく。
凪は長くて深いため息をついた。
しかたねえ、前に進むしかねえか。紫水はもう……どこにもいない。いないんだ。
「もう心配すんな。俺が全部引き受けてやる」
力をこめて戟(げき)を地底に打ち立てると上を見上げ、キラキラ輝く急勾配な坂を器用にはい上っていく。
亀裂の縁では加那汰が、細かく震えながら凪を待っていた。
「はっ、び、びっくりしたー。冗談きついよなー、凪、急に落ちてくしっ? え、なに??」
「いいから。――しばらくこれを持ってろ」
凪はずい、ふところから先ほどの石を取り出すや、加那汰に手渡した。
「あ……これ、主の戟(げき)の飾り玉じゃ」
言いかけて加那汰はあやうくすべすべした卵石を放り出しそうになった。
「凪! な、なんかこの玉暖かくなってきたっ! それにどくどくしてる! うわっ、ひ、光って……なんなんだ?! し、心臓かよ?!」
「それは『夜光珠(やこうしゆ)』だ。生命(いのち)の根源の玉と言われてる。深い海の底にしかない、ありがたくもめずらしーい宝玉なんだぞ」
凪は腕組みすると、えらそうに胸を張った。
「え。なんで凪がそこで得意げ?」
「っ、悪いか。そいつはもともと俺の兄のもんだが、ついさっき俺に託されたんだ!」
「えええー、嘘だろっ。じゃあさ、主がしょっちゅう楽しそうに話してた『俺様』で『泣き虫坊主』の弟ってー、あれも凪か?」
気軽い口調で問いかけてから、加那汰は自分の物言いをめずらしく後悔する。
「おおお俺はもう、泣き虫なんかじゃねぇっ」
くそっあんの阿呆兄、こんな子供(がき)にまでヘラヘラ適当なことばっかし吹聴しやがってっ、凪の荒れっぷりはじつに見事というほかはなかった。
こりゃまさに龍の逆鱗に触れたって怒り方だなー、と加那汰は片手で頭をぐしゃぐしゃかき回した。凪の怒鳴り声に反応してか、加那汰の手の玉も小さく震えている。
――まるでようやく再会した愛おしい者を前にして、おもわず失笑するかのように。
「怖っ。凪って怒ると見境いねーのな。……?」
玉を持った両手から、目に見えぬ熱い潮(うしお)が加那汰の身体に広がってきて、腹に力がみなぎった。ついで全身が薄く金色に光を帯びるや、急に喉が猛烈な渇きを訴えはじめる。
「よし。戻ったな、身体」
凪はふふんと鼻で笑うと、加那汰の手から夜光珠(やこうしゆ)を取り上げ、自分の剣を背から抜いた。
おもむろに柄頭のくぼみにぱちりと玉をはめ、天に切っ先をかざす。
「加那汰、おまえはたしかに今まで幽体だったけど、生身の身体のほうは亡くなってなかった。幽世(かくりよ)に飛ばしてあったんだよ」
その6に続く>>
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