夏だ!冒険だ!てことで【短編小説】『雲龍夢譚』6・(冒険ファンタジー)終
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はじめましての方、こんにちは。ゆきうさぎと申します。ここのところ完全自作短編小説を記事にしておりまーす。今日はその6。最終話です。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪
ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。
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「はあ?」
加那汰は思いきり眉をよせた。
「いいか、真実(ほんとう)の世界ってのはな、いろんな世が、幾層にも重なり合ってできてる。紫水は闇に喰われる寸前、おまえを二つの世にわけたらしい。だから今、元に戻した」
え何、それってつまり、俺生き返ったってこと、と加那汰が口走るより速く、凪は剣をふり下ろす。
それが合図のように忽然と雲一つ無い青空に雷雲が湧いて、中心に開いた孔から滝のような水がふり注いだ。
加那汰が驚きで息することすら忘れている間に、水は亀裂を埋め、小さな泉となった。
「どうだ、加那汰。闇切(やみぎり)には、こういう使い方もあるんだぜ」
凪は歯を見せて笑うと「さ、昨日の飯(メシ)の礼だ、遠慮なく飲め。生身の身体には生気が必要だ。この水は竜の宮からじかに引いた霊水だから、精がつくぞ?」
言われるまでもなかった。加那汰は夢中で泉のはたにひざまづき、水を手ですくうと喉を潤す。
にしても竜の宮だって?
たしかそれって常世(とこよ)にあるっていう、伝説の聖域だろ。
(凪ってホント何者なんだよ一体……)
気づけば雲は切れて、夏のひざしがひどく暑かった。
ようやく喉の渇きも収まり、人心地ついて水面を見つめると、はるか底のほうでキラキラ光るものが見える。
「あ、あれって、龍の鱗じゃ?!」
思わず叫んでいた。
あーあ、あんな深いところにあるんじゃ、何人(なんぴと)の手にももう届かない。ところがその時、横にひざまづいた凪がそろっと右手をさし出した。
「悪りぃな。さっき登ってくる時、あんまし採ってる余裕、なくって――」
凪は目をむく加那汰に手の中のものを押しつけると「……それで、足りるか、加那汰?」
加那汰は呆然として手の中のものを眺めた。
金剛石と見まごうほどの、燦然とした光を放つ――大きい蝶の羽のような鱗が四枚。
「こんな……うれしいけど、もらえないよっ」
立ち上がった凪を見やる。
「いいんだよ。取っておけって。宿の駄賃だ」
凪は加那汰の視線から逃げるように背をむけた。
まるでその背中が泣いているように見えて、加那汰は思わず怒鳴った。
「ダメだ! だって凪は? 凪だって鱗を採りに、わざわざ蓬山まできたんだろ?!」
凪はしばし無言だったが、やがて首に手をあてながらふりむいた。
「加那汰。俺はそれ、いらねえんだ――」
加那汰の胸がどくんと鳴った。
「じゃ、じゃあ凪はここへ一体なにしに……」
凪はひどく切なそうな顔をして笑う。
「俺は――、夢を探しにきたんだよ」
でもそれはこの蓬山にはなかった、と自らに言い聞かせるように呟くと、
「加那汰。おまえとはここで、サヨナラだ」
加那汰ははっとして凪を見あげた。
「そんなの、いやだ! 行かないで凪、俺っ、俺まだ凪と、一緒にいたいよ!」
「ごめんな。なあ加那汰。忘れるな、一番、大事なのは――いつでも、ここん中にある」
凪はおもむろにみずからの胸に親指をついてみせると、瞳を明るく輝かせた。
「迷ったら思い出せ。なんだってやってみなけりゃ、わからない。心の声を信じて、自分で答えを探しに行け。大丈夫、おまえはたいしたやつだよ」
「凪っ」
「加那汰、世界ってのはな、おまえが思うよりもっと、でっかくて面白いぞ。短い間だったけど、一緒にすごせて楽しかった。……姉ちゃんを大切にな」
ぶっきらぼうに頭をぐしゃりと撫でられて目をつむった次の瞬間、凪の姿は加那汰の前から忽然と消え失せた。
二月(ふたつき)ぶりに下山してきた加那汰が、口から泡を飛ばして語る不可思議な話を、姉の優乃(ゆの)は車椅子に座り、うなずきながら聞いていた。
「……ってわけなんだよーっ。なあ姉ちゃん、信じてくれる俺の話っ?」
「信じるも信じないも、加那汰。亡くなった母さんの昔話、覚えてる? 夜光珠(やこうしゅ)ってたしか、神龍のみが持てる宝玉なのよ」
「は?」
「そして常世を統べる龍王の子息たちは、皆、強い霊力を持ち、人にも変化(へんげ)できるって話」
「えええ?! なんだよそれっ、冗談だろ?!」
「その昔、龍王は自分の息子たちに命じたんですって。龍たるもの、海のごとくあれ。誰よりも強く、深く、ゆるぎなくなれと。以来、龍たちはあの世の果てまで巡っては、世界の均衡を揺るがす悪しきモノから、この世を守っている……」
加那汰は頭を抱えた。
じゃ主の正体は龍だった?!
俺、蓬山の龍と暮らしてたの?
つーか待て、てことはあの凪だって、と、わめいたところで、ぐらぐら大地が揺れる。
「な……なんだ? 地震かっ?!」
扉を蹴破るようにして外に飛び出すと、隣近所の村人たちが口々に騒ぐのが聞こえた。
「どうやら北坑道あたりで、大規模な崩落が起きたらしいぞ」
「――おい、あれを見ろ!」
村人たちの視線の先、蓬山の頂の上に弧を描きながら飛翔する、巨大なモノ。
加那汰は思わず目を見張る。胸が震えた。
――凪だ。あれが凪の本当の姿なんだ。
若い青龍が一匹、悠大に尾をたなびかせながら、音もなく蒼天(そうてん)に吸いこまれていく。
凪ぃ、ありがとおっ、俺、絶対に忘れないからなーっ、わけもなく涙があふれ出て、気づけば加那汰は声をかぎりに叫んでいた。
了
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あとがき
みなさま、こんにちは~。ゆきうさぎです♪
『雲龍夢譚(うんりゅうむたん)』、お楽しみいただけましたでしょうか。
お気に召すといいのですが、、。
このお話は2017年6月制作のものです。つい先日書いたような気がするのに、時のたつのってはやい。
突然ですがゆきうさぎは基本的に、一回終わりにした原稿はそっとしとく派です。
なのですが、今回、これをブログ記事に上げる際に、急遽、変更を余儀なくされた点が1つ発生したんです!!
それは……映画「天気の子」の公開でした。
じつはね、『雲龍夢譚』に登場する「紫水」って、本名は「紫水帆高(しすいほたか)」って言います。
なので、元原稿では凪は紫水のことを「帆高(ほたか)」って呼んでたの。
くりかえしますけれど、この原稿書いたの2017年6月なんですよ。
だから天気の子の登場人物の名前なんて、ゆきうさぎ、知るよしもなかったんですけども。
天気の子、まだ見てないんですが、読者さまで映画を見に行った方達が感想を書いていらして、それを拝読するに、
「んっ?!?!」
この映画には、なにやら「凪」と「帆高」って人が出てくるらしい?!?!
あちらの帆高はほたかじゃなくほだか、らしいですけれども。
なにこの偶然の一致~~!!!ががーん。
で、けっこう悩んだ末に、自分の原稿に手を入れることにしました。
そう、「帆高」記載をやめて「紫水」にしたんですー。泣
登場人物の名前なんて小説のキモなので、本当は直したくなかったんですけども!
このお話しを読んで下さる読者さまが、名前にひっかかりを覚えて物語に入りこめないようだと、もうしわけないなぁと思いまして。
ちなみに凪は青凪(あおなぎ)が正式名称です♪
なので龍族の仲間たちからは、「おい、あお!」「あお~」って呼ばれたりもしているという。今回の話では必要ない設定だったので、出しませんでしたけれどもね。
紫水は紫龍なんです。凪は青龍なの。
と、書くとオヤ?と思われるかと思います、そう、じつはまだ他にも何人かキーマンの龍がいるのであった。←この話に関係ないから出てこないけれども、、。
でもって、直接的には関係しておりませんが、『雲龍夢譚』の世界と以前に上げました『ただ、君に逢いたい』のファンタジー世界は、同一舞台となっております。
ゆきうさぎ、じつのところ、この世界の話をもうン十年やり続けているという……。
長編もけっこう書いているのですが、長編は9割が、この世界のお話しですかね~。
あ、ここの世界はエトランディアって呼称があるのですが、、、
なんでしょうね、10代から40すぎた今まで、あまりにも長い時間かけて醸成しすぎて、ゆきうさぎのエトランディアは、なかばクロニクル(年代記)化しており。
ときどきちがう世界も書きたくなって浮気するんですが、けっきょくまた、エトランディアに舞い戻って書き始めるという 笑
元々ゆきうさぎは、自分がエトランディアの話を空想する?妄想する?のが大大大好きだったので、この楽しさを他の人にもぜひ伝えたい!!っていう気持ちで、小説を書き始めたんですよ。←マンガとか描けなかったので。
その気持ちは10代のころから今にいたるまで、まったく変わっておらず。
いつか、もっと実力をともなって、どういう形でもいいから、世の中のたくさんの人に楽しんだり、共感頂けるような形で提供できたらいいなぁ~、、、と、ずーっと願っているんですけどねぇ。
なーんて、これはキラキラなマイ・ドリームなんですけどね☆☆
とりあえずこの後、子供達の夏休みが終わるまで、あと2作ほど短編をブログ記事にしようと計画しているんですけれど。
この2作はエトランディアの話ではないです。
また機会があったら、エトランディア世界も、お楽しみ頂けるかな~。
明日からは今までと同じような形で、男子のお仕事小説を記事にする予定です♪
こちらも、請うご期待。ぺこりん。
それではまた。
ごきげんよう♪